CPRA Talk

Interview.004

パブリシティ権について、相澤正久氏に聞く

コンサート会場外や繁華街で販売される芸能人のカレンダーやポスターといった偽物グッズ。最近では、インターネット・オークションでの販売も多く見かけるようになった。 このような偽物グッズの製造販売は違法、すなわち「パブリシティ権」(※1)の侵害である。実演家の氏名や写真を独占的に使用する権利であるパブリシティ権は、これまでも数多くの裁判例でその存在を認められてきており、今年2月に出されたピンク・レディー事件の最高裁判決(※2)は、最高裁として初めてパブリシティ権を法的に保護される権利として位置づけた画期的なものとなった。その反面、法律に明記された権利ではないため、どういった行為がパブリシティ権侵害となるのか、必ずしもはっきりしない状況にある。 CPRA TALK第4回目では、実演家にとって大切な権利である「パブリシティ権」について、相澤正久 特定非営利活動法人肖像パブリシティ権擁護監視機構理事長にお話を聞いた。
(2012年02月23日公開)

「パブリシティ権」が持つ意義

芸能人は、自身の容姿、才能、人柄、魅力その全てを駆使して、人気を集め、その顧客吸引力に着目して、様々な商品販売のコマーシャル等に起用されるのです。芸能人としての活動を息の長いものとしていくためには、そのイメージを守り、露出をコントロールすることが非常に大切です。そのため、芸能人の顧客吸引力を自ら独占する権利であるパブリシティ権は、芸能ビジネスの根幹に関わる重要な権利です。それだけでなく、芸能人のイメージを守るのは、ファンサービスの点でも大切です。 また、最近では、違法配信、海賊版販売等が原因で音楽CDの売上高が急速に減少し、音楽配信も一時のブームを超えてしまった感があります。他方で、芸能人と同じ空間を共有することができるライブやコンサートの需要は、ますます高まっています。コンサート会場等で販売されるタレントグッズは、ライブやコンサートの収益に貢献する部分が大きく、今後さらにパブリシティ権は重要となっていくでしょう。

「パブリシティ権」侵害の実態

芸能人の肖像が無断使用されるケースとしては、やはり生写真の販売が大きな割合を占めます。芸能人に無断で撮った写真というものは、時として芸能人のイメージを損なうだけでなく、そのプライバシーも侵害する問題を孕んでいます。そのほか、写真集やポスター、グッズなどが無断で製造され、販売される場合も多くあります。 このような不正商品は、原宿、秋葉原といった繁華街や観光地など、人が多く集まる場所で販売されることが多いようです。2003(平成15)年の調査では、タレントグッズの市場規模が約342億円であるのに対し、不正商品は123億円程度存在しました。この数字は、芸能界の人気の動向に大きく左右されるところがありますが、現在も、正規市場の約3分の1が不正商品市場とみて、まず間違いないでしょう。最近は、AKB48をはじめとしたアイドルブームで、タレントグッズが多く販売、購入されていますので、不正商品の市場もその分大きいのではないでしょうか。

肖像パブリシティ権擁護監視機構の活動

肖像パブリシティ権擁護監視機構は、1986(昭和61)年に設立されました。当時は、映画「セーラー服と機関銃」で人気を博した薬師丸ひろ子さんの不正商品が多く出回り、芸能プロダクションも正規品販売業者も、その対応に非常に苦慮しました。この経験から、関係者が力を合わせて対応する必要性を痛感し、機構の設立に至った訳です。 その後、2000(平成12)年には活動基盤をより強固にし、パブリシティ権を取り巻く環境をさらに発展させるため、特定非営利活動法人として東京都に認証されました。現在、芸能プロダクション、正規品販売業者を中心に20社、3団体が会員となっています(http://www.japrpo.or.jp/index.html)。 当機構では、全国主要都市で不正商品販売店舗を視察し、その動向を監視しています。過去には、悪質な業者を相手取った集団訴訟をとりまとめたこともあります。最近では、インターネット・オークション等を悪用した不正商品販売も盛んなため、専従の担当者を置いて常に監視し、プロバイダー等と協力してその掲載削除などを進めています。 不正商品をなくすには、啓蒙活動も不可欠です。被害の多い地域での駅貼りポスターや大都市圏大型野外ビジョンでの啓蒙告知放映などを精力的に行い、パブリシティ権の存在を広めています。先日CPRAが行った「中学生/高校・高専生を対象とした『有名人の肖像に関する調査』結果報告書」によれば、「肖像パブリシティ権」に関する説明文を提示した上でその認知を尋ねたところ、「内容を知っていた」と「内容をなんとなく知っていた」との回答は、合わせて66.8%となったそうですね。手法は異なるものの、昨年の調査では55.3%であったことを考えると、我々の地道な活動が多少なりとも実を結んでいるのではないか、と思います。 また、流通業者に対しても、専門雑誌への広告掲載や理事長名での文書の送付等により、不正商品を取り扱わないよう意識喚起を図っています。会員社の正規商品には、当機構の認定マークを添付することで、不正商品との識別に一役買っています。 パブリシティ権がさらに認知されれば、不正商品販売業者が駆逐され、ひいてはファンや消費者を守ることにつながると思います。

立法化を目指して

今回のピンク・レディー事件の最高裁判決では、敗訴こそしたものの、パブリシティ権が法的に保護される権利として明確に認められただけでなく、侵害にあたる三類型も示され、我々にとって大きな前進でした。今後は、今回示された判断に基づき、さらに断固とした態度で悪質な侵害行為に対応していきたいと考えています。 これまで、裁判例を積み重ねる形でパブリシティ権を確立してきたわけですが、残念ながら不正商品の販売差止め命令と損害賠償請求だけでは、悪質な業者に対して十分な抑止効果とはなっていません。また、一般消費者についても、パブリシティ権の内容こそ、ある程度普及したものの、法律で規定されていないために、何が良くて何が悪いのかが曖昧なままで、積極的に守ろうという意識形成につながっていない気がします。 したがって、刑事罰を伴う法整備が早急に必要であり、今後もその実現を目指して活動を続けていきたいと考えています。 パブリシティ権が法律できちんと保護されることで、芸能プロダクションだけでなく、テレビ局、レコード会社、映画会社、グッズ製造販売業者など、周辺も含めた広い産業保護につながります。 政府の知的財産政策の推進もあり、著作権・著作隣接権の保護はだいぶ強化されています。しかしながら、いい作品、いいコンテンツは、いい演者、いいタレントがいて初めて成り立つものです。コンテンツ振興の根幹をなす実演家のパブリシティ権の保護の重要性についても思いをはせていただきたいですね。

Profile

相澤正久(あいざわまさひさ)
特定非営利活動法人肖像パブリシティ権擁護監視機構理事長
株式会社サンミュージックプロダクション代表取締役社長
社団法人日本音楽事業者協会理事
1971年6月米国大学卒業。太平洋クラブ、京王観光を経て、1979年株式会社サンミュージック企画に入社。コマーシャルプロモーター、タレントプロデューサーとして早見優、酒井法子、安達祐実などを発掘、育成。1995年株式会社サンミュージックプロダクション取締役副社長に就任し、ドラマ、コマーシャル、映像部門を統括。1996年からお笑い部門プロジェクトGETを立ち上げ、ダンディ坂野、カンニング、ヒロシ、小島よしお、鳥居みゆき、髭男爵等の若手芸人の育成に力を入れる。2004年12月に代表取締役社長に就任。

GUIDE/KEYWORD

パブリシティ権(※1)

アーティストや俳優、タレント、アイドルなど有名人の名前や肖像等には、人々の注目を集め、商品の販売等を促進する経済的な価値がある。例えば、有名人の肖像を商品や宣伝に使用すると、その商品の売り上げを上げる効果(顧客吸引力)がある。こうした経済的な価値に着目した権利は「パブリシティ権」といわれ、数多くの裁判を通じて認められている。このような経済的な価値は有名人自身やプロダクションの努力を通じて得られたものであるため、裁判では、許可なく無断で、有名人の肖像等を使用したグッズの製造販売は、パブリシティ侵害とされる

ピンク・レディー事件(※2)

ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行したことから、ピンク・レディーを被写体とした写真を、雑誌のダイエット法の特集記事に無断で掲載したことに対し、ピンク・レディー側が、パブリシティ権侵害を主張した事件。最高裁は、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」と権利として保護すると明確に認めた。また、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象とする商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、もっぱら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となると解するのが相当である」とパブリシティ権侵害となる三類型を示した。
しかしながら、問題となった雑誌への無断掲載は、ダイエット法を解説し、これに付随して子供の頃に振り付けをまねていたタレントの思い出話等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、記事の内容を補足する目的で使用されたものであるため、専らピンク・レディーの肖像が有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権の侵害にならない、としてピンク・レディー側の主張を退けた。

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