CPRA Talk

Interview.005

違法ダウンロードについて、高杉健二氏に聞く

一昔前、音楽はステレオやプレイヤーを通じて、レコードやCDで聴くものだった。ところが、ここ10年でデジタル化、ネットワーク化が飛躍的に進展し、動画共有サイトから音楽をダウンロードし、デジタル・オーディオ・プレイヤーやスマートフォンで聴くなど、若い世代を中心に音楽の聴き方が大きく変わった。音楽がデジタル形式で扱えるようになると、アルバム単位ではなく、好きな曲だけを購入したり、様々なデバイスを用いて好きなとき、好きな場所で聴いたりすることができるようになるなど、音楽の楽しみ方が広がった。その一方で、音楽の無断アップロード、ダウンロードが深刻化し、音楽産業に大きな打撃を与えている。こうした中、著作権法が改正され、今年10月から市販の音楽CDや正規有料配信された音楽が違法にアップロードされたものを、違法と知りながらダウンロードする行為は刑事罰の対象となる。(※1) CPRA TALK第5回目では、長年音楽の違法配信問題に取り組み、今回の法改正も強く働きかけてきた一般社団法人日本レコード協会の高杉健二常務理事・事務局長にお話しを聞いた。
(2012年07月12日公開)

違法ダウンロードは、音楽の新たな創造の芽を摘む重大な行為

日本レコード協会では2010年に違法配信に関する利用実態調査を行いました。違法ファイルの推定ダウンロード数は、ストリーミングサイトからの無許諾ダウンロードを含め43.6億ファイルと、正規有料音楽配信からのダウンロード数の実に10倍にせまる量です。これを正規音楽配信の販売価格に換算すると、正規音楽配信年間売り上げのおよそ8倍にあたる6,683億円となりました。 これだけの違法ダウンロードが行われているにもかかわらず、音楽の作り手である作詞家、作曲家、アーティスト、レコード会社には一円も対価が還元されていない。違法ダウンロードは音楽の新たな創造の芽を摘む重大な行為であることを是非認識していただきたいと思っています。

違法アップロード、ダウンロードをなくすために

日本レコード協会では違法アップロード、ダウンロード行為を撲滅するため、多角的な対策をおこなっています。
まず、法的措置として、違法に音楽又は動画がアップロードされたサイトに対し、削除要請を行っています。違法アップロードは数え切れないほどですが、削除要請には多大な費用及び人手がかかり、会員各社と併せて、年間50万件程度行うのが精一杯です。削除してもまた別のサイトにアップされ、まさに「いたちごっこ」ですが、自らの権利を保護するために決して削除要請をやめてはいけないと思っています。また、繰り返し違法行為を行う悪質なアップローダーに対しては、刑事告訴、さらには民事上の損害賠償請求を行うなど、厳しい態度で臨んでいます。 他方で意識啓発活動にも積極的に取り組んでいます。「映画館へ行こう!」実行委員会にご協力いただき、映画盗撮防止キャンペーンCMでは違法ダウンロードについても取り上げていただいております。現在、全国3,300スクリーンで、本編上映直前に流されています。また、当協会では、主に中高生を対象に、会員レコード会社への職場訪問の取り次ぎを行っています。職場訪問の受け入れは当協会でも対応しており、多くの学生に、音楽CDは非常に多くの人々が関わって制作されていること、音楽創造活動をしていく上で著作権・著作隣接権の保護が不可欠であることを実感していただけたらと思っています。会員各社と併せ、一昨年度は525校約6,400人の学生を受け入れました。昨年度は震災の影響で若干減少しましたが、それでも304校約3,800人の学生が、レコード制作の流れや基本的な著作権知識を学びました。さらには正規配信であることの区別が容易につくよう、「エルマーク」(※2)の普及にも努めています。現在254社1,474の正規配信サイトで「エルマーク」が表示されています。 刑事罰が導入された意義

2009年の著作権法改正により、違法にアップロードされた音楽等をその事実を知りながらダウンロードする行為は、たとえ個人で楽しむ目的であったとしても違法である、という認識は一定程度広まったと思います。その一方で、刑事罰が導入されなかったことで、かえって「違法といってもみんなやっているし、捕まらないなら問題ないのではないか」という誤ったメッセージが伝わってしまったのではないか、と懸念しています。罰金だけでなく懲役刑もついた刑事罰が導入されたことで、違法ダウンロードが新たな音楽の創作に対するどれだけ重大な侵害行為であるか、認識していただけるようになるのではないかと期待しています。  違法アップロードと違法ダウンロードは車の両輪、需要と供給の関係にあります。両方を罰則の対象とすることにより、違法な音楽等の流通量が減少するものと考えています。 今回成立した著作権法改正法附則では、国及び地方公共団体に対し、意識啓発を行う義務を課すとともに、我々音楽等を提供する事業者に対しても、違法ダウンロードを防止する措置を講じる努力義務が課されました。これらの義務は、改正法が公布された6月27日からすでに施行されています。日本レコード協会としては、文化庁、音楽関連団体及びインターネット・サービス・プロバイダー等と協力して、10月1日の法律施行日に向けて、積極的な広報活動を展開していく予定です。ダウンロード行為をやめてもらうためには、取り締まりより前に、普及啓発が非常に大事だと思っています。 今後も素晴らしい音楽が創造されるために
今回、違法ダウンロードも罰則の対象となったことで、違法配信は減少に転ずると確信しています。今後は、違法ダウンロードをしていた人に正規音楽配信の利用やCD等を購入いただけるよう努力をしていかなくてはならないと思っています。 悪いことは悪い、と訴えていくつもりですが、違法ダウンロードを止めても、ユーザーが音楽にアクセスできる環境を整えないと、ユーザーの音楽離れがすすみ、結局いい音楽を創れないという同じ結果となってしまいます。これまで以上に、いい音楽を作ること、そしてユーザビリティを高めることに業界一丸となって注力していく必要があると思います。 若いときに聴いた音楽は、一生の支えになっていく。若い人にほど、色々な音楽を聴く機会が広がるようにしたいですね。

Profile

高杉健二(たかすぎけんじ)
一般社団法人日本レコード協会常務理事、事務局長
1958年秋田県生まれ、1981年中央大学法学部法律学科卒業、住宅ローン会社を経て1997年日本レコード協会入社、1998年著作権部課長、2002年法務部部長、2004年事務局長、2008年理事・事務局長、2011年から常務理事・事務局長

GUIDE/KEYWORD

違法ダウンロード行為に対する刑事罰の導入(※1)
インターネットの普及、大容量化を背景に、動画共有サイトやファイル交換ソフト等によって違法に配信される音楽や映像作品をダウンロードする行為が、正規の配信市場を上回るほどの膨大な規模になっている。このような実態をかんがみ、2009年著作権法が改正され、たとえ私的使用目的であったとしても、違法にアップロードされた音楽等を、それと知りながらダウンロードする行為は違法となった。ただし、罰則は課されず、権利者は違法ダウンロード行為者に対し、差止め請求及び損害賠償請求が可能となるにとどまった。
2012年6月、内閣が提出した著作権法改正法案に国会の審議過程で修正がなされるという形で、刑事罰が導入され、違法にアップロードされた音楽等(有償で正規に提供された物に限る)を、それと知りながら、ダウンロードする行為は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(又は併科)の対象となる。同改正法は、2012年10月1日施行。

エルマーク(※2)
ユーザーが安心して音楽・映像配信を利用できるため、レコード会社・映像製作会社との契約によって配信されているレコード(CD)音源や映像などに表示されるマーク。それらコンテンツを配信する事業者のパソコン向けサイトまたは携帯電話向けサイトで表示されるほか、レコード会社・映像製作会社の配信サイトでも表示される。許諾を意味する「ライセンス(License)」の「L」をモチーフにしてデザインしたことから、"エル マーク"と呼ぶ。
http://www.riaj.or.jp/shikibetsu/index.html

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