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教えて、先生!【特別編-その2】メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?

「教えて、先生!」チーム/関 真也

自分の歌声や演奏を勝手に使われたとき、どうしたらいいんだろう?
芸団協CPRAってなに?
念願のデビューを果たしたばかりの新人アーティスト、ネコ吉君の素朴な質問に先生が答えます。
今回は、芸団協CPRA30周年記念事業オンライン・セミナー テーマ1「新たな技術と実演」と絡めた特別編!いつもとちょっと違うネコ吉君の相談に、あの先生が答えます。
特別編(その2)は「メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?」。
前回先生の協力も得て、無事メタバース上でのイベントのやり方がわかったネコ吉君。それでも、まだまだ分からないことが沢山あるようで…

特別篇-その2メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?

ネコ吉くん
ネコ吉くん

メタバースを使ったファン・ミーティング、楽しかったな~。
今度はメタバースで路上ライブとかしてみようかな。

先生

さすがネコ吉君、メタバースにもすっかり慣れたみたいだね。
ただし、「路上ライブ」については、著作権法と関連して気を付けなくてはいけないことがあるよ。

ネコ吉くん
ネコ吉くん

えっ、なになに?

先生
先生

リアルの世界で路上ライブをするのであれば、「非営利無料の演奏」にあたって、権利処理をせずに自由に行うことができる場合もあるよね。
でも、メタバースのようなインターネット空間では、「路上ライブ」のような行為は「演奏」ではなく、「自動公衆送信」にあたるから、権利者の許諾を得る必要が出てくるよ。

ネコ吉くん
ネコ吉くん

えっ、どういうこと?音楽CDをBGMで流そうかな、とも思っていたんだけど。
もっと、詳しく教えて!

<解説>

メタバースでは、現実空間と同じ感覚で様々な体験を楽しむことができると言われることがあります。しかし、そこで提供されているのは、あくまで、ネットワークを通じて送信されるデジタルコンテンツです。

したがって、多くの場合、メタバース上で音楽を演奏したりBGMとして流したりすることは、著作権法上、「演奏」などではなく「公衆送信」という扱いになります。とりわけ、メタバースではインターネットを通じた双方向の送信が行われるため、公衆送信の中でも、「放送」ではなく、「自動公衆送信」や「送信可能化」と位置付けられる場合が多いといえます。

同様に、メタバース上で演劇をしたり、絵画を展示したりすることも、多くの場合、「上演」や「展示」ではなく公衆送信となります。

なお、同一構内にある電気通信設備を用いて行われる送信は「公衆送信」から除かれているため、「演奏」「上演」などとして取り扱われるケースもありますが、遠隔地にいる複数のユーザーがアクセスするメタバースでは、そのようなケースは少ないでしょう。

このため、学園祭で生徒が音楽を演奏する場合のように、公表された著作物を非営利・無料・無報酬で演奏することは、現実空間で行うのであれば著作権法38条1項により許諾を得なくとも可能ですが、メタバースでは、許諾なくこれを行うことはできないと考えられています。同項で可能な行為の中に「公衆送信」が含まれていないからです。

さて、ネコ吉君がメタバース上で路上ライブをしたり、音楽CDをBGMとして流したりするためには、どのような対応が必要になるでしょうか?

|メタバース上で、ライブ(自身が歌唱・演奏)をする場合
メタバースという目新しい言葉に惑わされてはいけません。実は、メタバース上の音楽利用について必要となる対応は、わたしたちが普段使っているインターネット上で音楽を利用する場合と大差はないのです。なぜなら、先ほどご説明したとおり、メタバースにおける音楽の利用は、インターネット一般における利用と同じように「公衆送信」という位置付けになるからです。

JASRACも、2022年12月26日付けで「メタバースでの音楽利用について」を公表し、この点を明らかにしています。具体的な利用方法によりますが、ネコ吉君がJASRACの管理楽曲を利用し、メタバースで路上ライブ(バーチャルライブ)をする場合には「動画配信」の規定に従って、また、BGMとして流す場合には「音楽配信」の規定に従って、それぞれライセンスを受けることになるでしょう。

また、プラットフォーム事業者がJASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者と利用許諾契約を締結しているため、ユーザーが個別に許諾を得なくともその管理楽曲をプラットフォーム上で利用できる場合がある(参考:JASRAC「YouTubeなどの動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」)ことも、従来のインターネットにおける音楽利用と同様です。

JASRACを例に解説しますと、例えば前回紹介した「cluster」や「REALITY」はJASRACと利用許諾契約を締結しているため、ユーザーは、JASRACと契約したり許諾料を支払ったりすることなく、JASRACの管理楽曲を利用できます(JASRACと利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧)。

ただし、プラットフォームから使用楽曲の登録などを求められる場合があるため、プラットフォームごとの取決めをよく確認しましょう(例として、clusterにおける使用楽曲の登録についてはこちらを参照)。また、JASRACと利用許諾契約を締結しているプラットフォームでも、編曲したり、訳詞を付けたり、替え歌にしたりするなど、楽曲の改変をするには権利者の許諾が必要になるので注意してください。

ネコ吉君も、著作権等管理事業者と利用許諾契約を締結しているプラットフォームを選び、それらのルールを守ることにより、簡単にメタバースで路上ライブができそうですね。

|メタバース上で、市販の音楽CDをBGMとして流す場合
では、メタバース上のファン・ミーティングで、市販の音楽CDをBGMとして流すことはどうでしょうか?
これも従来のインターネットにおける音楽の利用と同じなのですが、自分で演奏するのではなく第三者が作った音源を利用するには、レコード会社などの音源製作者やミュージシャンなどの実演家から、それぞれ著作隣接権の許諾を得なければなりません。たとえJASRACと利用許諾契約を締結しているプラットフォームで音楽CDなどの音源を利用する場合でも、この著作隣接権の許諾は別途必要であることに注意してください。

今回教えていただいた先生

関 真也 先生 関真也法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士
バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

漫画、アニメ、映画、ゲーム等のコンテンツやファッションに加え、XR、メタバース、VTuber/アバター、NFT、AI、eSports等の分野を中心に、知的財産問題、契約書作成、紛争対応、事業の適法性審査等を多く取り扱う。 XR分野では、一般社団法人XRコンソーシアムの社会的課題WG・メタバースWG・3DスキャンWGにて各座長を務めるとともに、経済産業省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミー研究会」、同ファッション未来研究会「ファッションローWG」の各委員を務めXR・メタバース領域を担当するなど、XR・メタバースと法に関する調査・研究、政策提言等を行っている。主な著作に「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ビジネスのためのメタバース入門」(共編著、商事法務、2023年)、「ファッションロー〔第2版〕」(共著、勁草書房、2023年)等がある。



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≫メタバースと実演 関真也弁護士に聞く(2023年5月)

教えて、先生! シリーズ
≫【第1回】アーティストやミュージシャンにも著作権ってあるの?
≫【第2回】プロじゃなくても「著作隣接権」ってあるの?
≫【第3回】ライブと録音物で違いがあるの?
≫【第4回】これまでのおさらい
≫【第5回】芸団協CPRAって何をするところ?
≫【第6回】サブスク配信の使用料も芸団協CPRAからもらえるの?
≫【第7回】自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
≫【第8回】レコーディングに参加したら、名前は表示されるの?
≫【第9回】無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
≫【特別編その1】メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?