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生成AIについて○○さんに聞いてみた ―法律編 安藤和宏さん(東洋大学教授)―

法制広報部 穎川一仁

生成AIを巡っては、誤った情報の拡散や個人情報の漏えいのほか、著作権侵害やクリエイターの仕事が奪われたりするのではないかなどの懸念が示され、著作権法や不正競争防止法、肖像権、パブリシティ権などとの関係について議論が行われている。
その一方で、簡単に文章や画像、音楽などを生成することができるようになり、新たな創作活動の手法として期待されるところもある。この企画では、様々な立場の方に考えを伺い、私たちは生成AIとどう向き合っていけばよいのか考えていきたい。
シリーズ第3回は、法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」にも 構成員として参加している、安藤和宏 東洋大学教授に、生成AIと著作権や肖像権、パブリシティ権の問題についてお話を伺った。(取材日:2026年6月30日)

まずは、実演家の立場で理解しておくべき、生成AIと著作権の問題について、今一度教えてください

生成AIと著作権の問題を考える上では、「①学習・開発段階」と「②生成・利用段階」の二つのフェーズに分けて考えるのが分かりやすいです。
①の学習・開発段階では、大量のデータを生成AIに学習させるわけですが、このデータの中に著作物が含まれていても、日本では基本的に権利者から許諾を得なくてよいことになっています。これは、著作権法第30条の4で、「情報解析」目的での利用について著作者の権利が制限されているからで、この制限規定は第102条1項で「実演」にも準用されています。
要するに、生成AIに学習されるデータにあなたの実演が含まれていても、原則として、学習行為を禁止することができないというのが現在のルールです。

非営利に限らず、営利目的でも実演が無許諾で利用できるというのはすごく緩いルールですね

 そのとおりです。ですから、日本は"機械学習パラダイス"だと言われたりもします。ただし、「学習」なら何でもOKというわけではないことには、注意が必要です。
第30条の4には但し書きがあり、権利者の利益を不当に害する場合はNGだとされています。例えば、特定のキャラクターを出力するために、そのキャラクターを狙い撃ちしたAI学習をさせる場合などは、権利制限の対象外になる可能性があります。
実演でいえば、「〇〇さんに歌わせてみた」といった、いわゆるAIカバー音源の生成を目的として、特定のアーティストの声質や歌唱の癖を学習させるために、そのアーティストの実演(既存の音源など)をAIに読み込ませる場合なども、権利制限の対象外になる可能性があると考えられます。
とはいえ、この但し書きがどのような場合に適用されるのか、現時点では裁判例がないので、必ずしも明確ではありません。

学習段階においては権利制限規定によって、特定の場合を除いてはほとんど実演家の権利が及ばないということがよく分かりました。生成・利用段階についても教えてください

先ほど説明したとおり、学習・開発段階においては、第30条の4という広範な権利制限規定がありますが、生成・利用段階において生成されたAI生成物の利用については、そのような規定がありません。そのため、生成AIで、既存の著作物に類似したものが出力された場合、そのAI生成物の利用が著作権侵害になる可能性があります。
もっとも、侵害の成否は、既存の著作物との類似性だけでなく、依拠性の有無なども考慮して判断されるため、AI生成物が偶然、既存の著作物に類似したにすぎない場合には、著作権侵害が成立しないこともありえます。

ここで問題なのが、実演の場合です。
現行の著作権法は、あくまで「その実演」を保護するという考え方なので、元の実演を物理的に利用していない場合は、権利が及ばないと一般的には理解されています。
生成AIは、多くの場合、学習した実演データをそのまま組み合わせて出力しているのではなく、新たに生成をしているため、特定の実演に似ているものが出力されたり、利用されたとしても、元の実演に係る著作権法上の権利は及ばないことになります。モノマネが実演の権利侵害にはならないという話と同じことですね。

著作物と実演では法的な前提が大きく異なるのですね。生成AIと肖像権、パブリシティ権の問題についてはどうでしょうか

まず、実演家に関する権利というくくりの中でどうしても混同されがちですが、誤解しないでいただきたいのは、肖像権やパブリシティ権といった権利は、著作権法で守られる権利(著作隣接権)ではないということです。
「では、どの法律に規定されているのか」と疑問に思うかもしれませんが、現状では、これらの権利を明文で定めた法律はありません。
肖像権は、人格権の一内容として判例によって認められてきた権利であり、その侵害については民法第709条に基づく不法行為責任が問題となります。パブリシティ権は、肖像や氏名等の顧客吸引力を排他的に利用する権利のことで、肖像権と同じく、判例によって認められてきたものです。とくに2012年のピンク・レディー事件最高裁判決は、最高裁として初めてパブリシティ権を承認し、パブリシティ権侵害の判断基準を定立しました。肖像権もパブリシティ権も、著作権のように「〇〇権」という独立した権利として法律に明記されているわけではなくて、判例が作り上げてきた 権利なのです。

このように肖像権やパブリシティ権は、著作権とは保護対象や保護法益、権利範囲が異なるため、著作権法第30条の4のような権利制限規定があるわけではありません。
他方で、これらの権利は法律上に明文化されているわけではないため、生成AIによる学習・開発や生成・利用との関係で、どのような場合に権利侵害が成立するのかについては、なお解釈上の課題が残されています。

法務省における「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」では、このような法的背景を踏まえ、現行法や判例法理を前提として、肖像や声等の無断利用について、どのような場合に民事上の責任が生じるのか、またどのような法的保護が認められるのかについての検討が行われています。

お話しを伺った率直な感想として、実演家にとって、自分の実演についても肖像についても、結局のところ生成AIでの利用について十分にコントロールできるとは言いがたい状況だと感じました。このような状況についてはどう思われますか

非常に深刻な問題であると考えています。というのは、アーティストやタレントにとって、プロとして活動していく上で、自分の肖像や声の露出をどのようにコントロールするかは極めて重要だからです。自分の実演や肖像、声をどのように視聴者やファンに見せたり、聴かせるのか、そしてその価値を最大化していくのか、という戦略は非常に大切なことです。プロダクションも、専門 的な知見を駆使して、日頃から露出コントロールを考えながらマネージメントを行っています。新曲の発表時期、ライブの開催時期、広告への出演頻度など、挙げればきりがありません。こうした緻密な戦略の上にアーティストの価値は築かれています。
ところが生成AIによって、アーティストやタレント、プロダクションが直接関与できないところで、肖像や声、さらには実演に類似したコンテンツまでが無断で生成・利用されるようになっています。このような利用が広がれば、本人やプロダクションが行ってきた露出コントロールが大きく損なわれるおそれがあります。

実際にSNS上では、すでに著名なアーティストやタレントの「〇〇さんになってみた」系、「〇〇さんに歌わせてみた」系といった動画などが数多く投稿されていて、その多くは本人の許諾を得ずに肖像や声を利用していると考えられます。こういった無断利用は、それ自体が収益をあげていなかったとしても、露出コントロールの観点から見れば、アーティストやタレントの活動に少なか らぬ影響を及ぼす可能性があります。

しかし、パブリシティ権については、肖像等が有する「顧客吸引力」を保護する法理であるため、商業的(営利)ではない利用には権利侵害が認められにくいという問題があります。生成AIや関連サービスの進歩もあって、特に専門的な知識や技術をもたない一般の人でも、容易に他人の肖像や声を利用したコンテンツを作れてしまうことも、事態を深刻にしていると思います。
現在の法制度は、こうした「露出をコントロールする利益」を十分に保護しているとは言いがたく、この点は今後の重要な検討課題の一つだと考えています。

様々な課題が見えてきましたが、こうした問題を解決していくためには、今後どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。

まず、社会全体としてAI生成物に関するルールをさらに整備していくべきです。EUのAI法は、様々な目的に広く使える生成AIモデルの提供事業者に対して、学習に使用したコンテンツに関する十分に詳細な要約を作成・公開する義務を課しています。生成段階についても、EUのAI法第50条で、AI生成・改変コンテンツについての透明性義務を課していて、AIと対話していることの明示や、AIによって生成・操作されたコンテンツであることが分かるように表示することが義務とされています。こうした透明性ルールが整備されることで、AIがどのような形で利用されているのかを権利者や利用者が把握しやすくなり、権利侵害の有無についても確認しやすくなります。
日本でも、ガイドラインのように拘束力がない形ではなく、法的な義務としてルール化することが必要だと思います。

次に、著作権法第30条の4の見直しです。見直しの方向性は二つあると思っています。
一つは、オプトインやオプトアウトの仕組みを導入して、AI学習における著作物等の利用について、権利者がコントロールできるようにすることです。そうすれば、AI学習に勝手に利用されないことを、権利者自身が選択できるようになります。
もう一つの方向性として考えられるのは、AI学習についてコントロールすることを諦めて、報酬請求権を導入するという方向性です。AI学習が実態として国境を越えて行われていることなどを踏まえると、実効性のある形で権利者がAI学習についてコントロールをすることは難しいのではないかという指摘もあります。報酬請求権という考え方は、こういった現実をむしろ逆手にとったものです。すなわち、AI学習に利用されたものについて一律に報酬請求権を認めることで、経済的なバランスの調整を図るわけです。

私は、生成AIの問題は、実演家にとっては第二の「機械的失業」になりかねない問題であると考えています。例えば、BGM音源が生成AIによる音楽に代替されてしまえば、作詞家・作曲家、ミュージシャンたちは、音楽で収入を得ることが難しくなってしまいます。実際に、約100年前に蓄音機とレコードが誕生し、放送番組も録音・録画技術の発達によって番組制作の仕方が変化したことで、生演奏・生出演で収入を得ていた実演家の失業問題(機械的失業)を引き起こしました。その解決策として、レコードの二次使用について実演家の報酬請求権という制度が生まれたという歴史があります。
現代のAI問題でも、同じような現象が起きているのではないでしょうか。もっとも、どういうルールで徴収し、分配するのかといった具体的なことについては、十分な検討が必要だと思います。

最後に、肖像権やパブリシティ権に関する制度整備です。どうしても現行の法制度やこれまでの裁判例の積み重ねだけで対応しようとしても限界があります。ピンク・レディー事件最高裁判決にしても、生成AIは想定されていません。現在、そしてこの先の時代に即したルールを作って、実演家が自らの肖像や声についても、無断でAI学習・利用されることのないように、本人がコントロールできる制度へ見直していく必要があります。もちろん、これは商用利用ではない場合でも対象にすべきです。

もっとも、今お話したような法制度の確立にはかなりの時間と労力がかかります。そのため、すぐにできることとして、芸能業界全体で共通のルールやガイドラインを整備し、AI利用に関する適切な慣行を社会に周知・浸透させていくことも重要だと思います。法制度の確立には時間を要するだけに、こうした自主的な取組も現時点では大きな意義があるでしょう。

最後に、実演家の皆さんへ一言いただけますか

どんなに技術革新が起きても、実演を含む文化芸術自体が社会から完全になくなることはないと思っています。しかし、文化芸術をこれからも健全に発展させていくためには、生成AIがもたらす負の影響に目を向け、適切な措置を講じる必要があると考えています。
実演家の皆さん一人ひとりの活動や将来に大きく関わる問題です。ぜひ関心を持っていただき、AI時代に実演家の権利や文化芸術をどのように守り、発展させていくべきかを、一緒に考えていただければ大変うれしく思います。



――ありがとうございました。生成AIと著作権、そして肖像権・パブリシティ権をめぐっては、課題が山積している状態であることがよくわかりました。芸団協CPRAとしても、実演家の皆さんが今後も健全に活動していけるように、引き続き議論を深めていきたいと思います。

安藤和宏さんプロフィール

1963年生まれ、東京都葛飾区出身。東京学芸大学卒業、フランクリンピアース・ローセンター(LL.M.)、ワシントン大学ロースクール(LL.M.)修了、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程博士研究指導終了(法学博士)。高校教諭、音楽出版社の日音、キティミュージック、ポリグラムミュージックジャパン、セプティマ・レイ、北海道大学大学院法学研究科特任教授を経て、現在は東洋大学法学部教授。専門は、知的財産法、音楽ビジネス論。
著書に、『エンターテインメント・ビジネス~産業構造と契約実務~』、『よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編6th edition』、『よくわかる音楽著作権ビジネス実践編6th edition』(共にリットーミュージック)、『アメリカ著作権法』(弘文堂)、『アメリカ著作権とその実務』(共訳、雄松堂出版)等がある。



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