CPRA news Review

他の記事を探す
カテゴリで探す
記事の種類で探す
公開年月で探す

著作権法の一部を改正する法律について―「レコード演奏・伝達権」の創設―

法制広報部 君塚陽介

「レコード演奏・伝達権」の創設を含む著作権法の一部を改正する法律が、2026年6月17日に参議院において可決・成立した。
本稿では、「レコード演奏・伝達権」創設の背景や、これまでの経緯を振り返るとともに、改正法の概要について紹介する。

創設の背景

著作者には、演奏権(著作権法第22条)や公の伝達権(著作権法第23条第2項)が認められているが、実演家やレコード製作者に、そのような権利が認められていなかった。そのため、例えば、店舗などで音源が再生されても、作詞家や作曲家などの著作者は使用料を受け取ることができるものの、音楽を演奏し、歌唱する実演家や、音源を製作するレコード製作者は使用料を受け取 ることができなかった。

著作隣接権に関する国際条約に目を向けると、商業用レコードが、放送や公衆への伝達に利用される場合には、衡平な報酬が、実演家やレコード製作者に対して支払われなければならないとしている(ローマ条約第12条、WPPT第15条)。しかしながら、これらの国際条約では、これらの規定を全く適用しないことも、一部適用することも認められているため(ローマ条約第16条第1項(a)、WPPT第15条第3項)、日本は、これらの規定を放送や有線放送、入力型自動公衆送信において商業用レコードが使用される場合に限って適用してきた。しかしながら、「レコード演奏・伝達権」は、部分的な導入も含め、142か国・地域で導入されている。さらに、近年では、韓国や中国、シンガポールといったアジア地域でも導入されている。このような中で、日本は、国際的な潮流からは取り残された状況にあった。

また、「レコード演奏・伝達権」が導入されていないことによって、日本の音楽コンテンツ産業の海外展開においても不利益を被るおそれがある。すなわち、著作隣接権に関する国際条約では、「レコード演奏・伝達権」が導入されている国において、「レコード演奏・伝達権」が導入されていない国の実演が録音されたレコードが公に再生されても、保護しなくても良いとする相互主義を 認めている(ローマ条約第16条第1項(a)、WPPT第4条参照)。そのため、「レコード演奏・伝達権」を導入していない日本の音楽コンテンツが、「レコード演奏・伝達権」が導入されている国において公に再生されたとしても、使用料が支払われない可能性があるのだ。

さらに、令和7(2025)年1月24日には、石破内閣総理大臣(当時)が施政方針演説において「新たな重点として、官民連携により文化芸術・スポーツの振興を図ります。...エンタメ・コンテンツ産業について、2033年までに海外売上高を5兆円から20兆円とする目標を掲げ海外展開を支援し、クリエイターの方々の育成や安心して働ける環境の整備を含めその発展を強力に支援します」 として ※1、日本コンテンツの海外展開を後押しする機運が一層高まっていた。

著作権分科会における経緯

これまでの著作権分科会における議論では、「レコード演奏・伝達権」は、どのように取り上げられてきたのだろうか。例えば、2020(令和2)年2月に著作権分科会「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」が取りまとめた『「放送コンテンツのインターネット上での同時配信等に係る権利処理の円滑化(著作隣接権に関する制度の在り方を含む)」に関する基本的な考え方(審議経過報告)』では、「いわゆる『レコード演奏権』については、本件とは問題の所在も関係する事業者も大きく異なる一方で、公衆への伝達に関わる権利の取扱いという点では共通性もある。こういった点も踏まえながら、別途、今後の取扱いを検討することが適当である」とされていた ※2

2021(令和3)年7月、文部科学大臣が、DX時代に対応した著作権制度・政策の在り方について、文化審議会に対して諮問した。この諮問を受け、令和5年度の著作権分科会では、DX時代に対応した適切な対価還元方策に関連する諸制度の在り方のひとつとして「レコード演奏・伝達権」が掲げられた。著作権分科会では、諸外国における制度や権利者・国民の意識に関する調査報告のほか、日本レコード協会と音事協、音制連、芸団協CPRAの連名による市場調査に関する報告も行われた ※3

また、令和6年度には、日本レコード協会、音事協、音制連及び芸団協CPRAの連名での発表が行われ、日本の音楽コンテンツ産業の重要性のほか、「レコード演奏・伝達権」の必要性を改めて訴えた ※4

そして、2025(令和7)年6月に知的財産戦略本部が策定した『知的財産推進計画2025』では、「アーティストの海外展開を後押しするため、レコード演奏・伝達権の導入について、関係者の合意形成の見通しや法制的な枠組み等を含めた在り方を議論し、早期に結論を得る」とされた。

令和7年度の著作権分科会に設置された政策小委員会では、小売や文化芸術、スポーツなど幅広い分野の団体から対面又は書面によるヒアリングも実施しつつ、関係者の状況や権利が創設された場合の社会的影響等も踏まえながら重点的な議論が進められるとともに、「法制度に関するワーキングチーム」を設置し、法制上の論点について議論が重ねられた。

そして、素案に対する意見募集も行いつつ、2026年3月4日開催の第5回会合において『文化審議会著作権分科会政策小委員会報告書』を取りまとめ、同月12日開催の著作権分科会に報告のうえ、『文化審議会著作権分科会報告書』(以下『報告書』)が取りまとめられた ※5 。『報告書』では、日本の音楽の海外展開等の状況の変化を踏まえ、国際的な制度の調和を図り、実演家等への対価還元を一層促進する観点から、「レコード演奏・伝達権」を創設することが望ましいとされた。 この内容を踏まえ、5月15日には著作権法改正案が閣議決定され、6月3日の衆議院「文部科学委員会」での審議を経て、同月4日の衆議院本会議で可決。参議院に送付された後、同月16日の参議院「文教科学委員会」での審議を経て、同月17日の参議院本会議において可決成立し、6月24日に公布された。衆参いずれの委員会においても附帯決議がなされている ※6

著作権法の一部を改正する法律案の概要

改正著作権法では、商業用レコード ※7 に録音された実演や音を 、公に再生した者や、公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達した者は、当該実演に係る実演家やレコード製作者に対して二次使用料を支払わなければならないとしている(改正著作権法第95条の2第1項、第95条の3第1項、第97条の2第1項、第97条の3第1項)。ローマ条約やWPPT、諸外国と同様に、「レコード演奏・伝達権」を二次使用料請求権に位置付けている。
また、非営利・無料の場合(改正著作権法第95条の2第2項第1号、第95条の3第2項第1号ほか)や通常の家庭用受信装置を用いて公に伝達する場合(改正著作権法第95条の3第2項2号ほか)などには適用しないとしている。

個々の実演家等が個々の利用者に対して権利行使することや、個々の利用者が支払う相手方である実演家等を逐一確認して二次使用料の支払いを行うことは、そのコスト等に鑑みると現実的には困難である ※8
そこで、商業用レコードの放送二次使用料において採用されている指定団体制度を、「レコード演奏・伝達権」でも採用している。すなわち、文化庁長官が指定する団体がある場合には、実演家とレコード製作者それぞれの指定団体のみが権利を行使することができるとしている(実演家につき改正著作権法第95条の2第3項及び第95条の3第3項による第95条第5項の準用。レコード製作者につき改正著作権法第97条の2第3項及び第97条の3第3項参照)。

指定される団体の要件や文化庁長官による監督等は、放送二次使用料における指定団体に関する規定を準用しているが(改正著作権法第95条の2第4項、第95条の3第4項ほか)、二次使用料の額の決定方法は異なっている。すなわち、放送二次使用料では、二次使用料の額は、指定団体と放送事業者等又はその団体との間で協議により定めるとしているが(著作権法第95条第10項)、「レコード演奏・伝達権」では、利用者が多数に及ぶと想定され、全ての利用者と協議・交渉して金額を決定することは困難と考えられるほか、また、利用者の中には指定団体に比して交渉力の弱い者も含まれると想定されることから ※9 、指定団体は、利用区分ごとの二次使用料の額や実施の日などを記載した二次使用料規程を定めなければならないとしている(改正著作権法第103条の2第1項)。

指定団体が二次使用料規程を定めようとするときは、利用者等の意見を聴取するように努めなければならないとしている(改正著作権法第103条の2第2項)。

さらに、指定団体は、二次使用料規程案を公示しなければならない(改正著作権法第103条の2第3項)。利用者代表は ※10 、公示の日から1か月以内に、この二次使用料規程案の変更について協議を求めることができ、指定団体は、この協議の求めに応じなければならない(改正著作権法第103条の3第1項及び第2項)※11 。また、二次使用料規程案の公示の日から6か月を経過しても、この協議が成立しない場合には、当事者は、文化庁長官に対して裁定を申請することもできる(改正著作権法第103条の4第1項)。

指定団体は、利用者代表から協議の求めがなかったり、協議が成立などした場合には、その実施の日までに、二次使用料規程を文化庁長官に届け出るとともに、公表しなければならない(改正著作権法第103条の5第1項)。
指定団体は、届出をした二次使用料規程に定める額を超える額を請求してはならないことになる(改正著作権法第103条の5第3項)。

今後について

指定団体による二次使用料規程の作成及び利用者代表との協議・調整に時間を要するものと考えられるほか、利用者をはじめとする国民に対して周知する必要があることから ※12 、改正著作権法は、公布の日から3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(改正著作権法附則第1条)。もっとも、この施行日前においても、権利行使する団体の指定や二次使用料規程の策定、指定団体と利用者代表との二次使用料規程案に関する協議などを行うことができる(改正著作権法附則第4条)。

『報告書』では「権利者側においては、各利用者の懸念や不安等に向き合い、適切な配慮を講じていくことが重要となる」として※13 、二次使用料規程の策定や徴収、分配にあたって様々な運用上の留意点が述べられている。

さらに、今後の課題として「レコード演奏・伝達権」とともに、「著作隣接権という制度の存在や意義、著作者の権利と実演家等の権利の違い、実演家等を取り巻く環境やその権利を保護する必要性等の前提事実について、...この機会に国民への周知啓発に積極的に取り組むべきである」としている※14

参考

著作権法の一部を改正する法律(条文)は、下記をご覧ください。
文化庁 > 著作権 > 最近の法改正 > 令和8年特別国会 著作権法改正について




【注】
※1 首相官邸ウェブサイト(https://www.kantei.go.jp/jp/103/statement/2025/0124shiseihoshin.html) (▲戻る)
※2  『令和元年度著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について』(2020年2月4日) (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/55/pdf/92074501_04.pdf) (▲戻る)
※3 文化審議会著作権分科会政策小委員会(令和5年第5回)https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/seisaku/r05_05/ (▲戻る)
※4 文化審議会著作権分科会政策小委員会(令和6年第5回)https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/seisaku/r06_05/ (▲戻る)
※5  『文化審議会著作権分科会報告書』(2026年3月) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94345301_02.pdf (▲戻る)
※6 衆議院「文部科学委員会」につき、衆議院ウェブサイト(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/monka1BE6D6F238AF55E749258E0B00260955.htm)、参議院「文教科学委員会」につき、参議院ウェブサイト(https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/current/f068_061600.pdf)参照 (▲戻る)
※7 「商業用レコード」には、「送信可能化されたレコードを含む」(改正著作権法第94条の3第1項)とされ、音楽CDだけではなく、配信音源も対象となる (▲戻る)
※8 『報告書』9ページ (▲戻る)
※9 『報告書』10ページ (▲戻る)
※10 「利用者代表」については、改正著作権法第103条の3第1項参照 (▲戻る)
※11 指定団体は、届出をした二次使用料規程の変更について、利用者代表から協議を求められた場合にも協議に応じなければならない(改正著作権法第103条の6第1項) (▲戻る)
※12 『報告書』11ページ (▲戻る)
※13 『報告書』8ページ (▲戻る)
※14 『報告書』14ページ (▲戻る)