アメリカで進むAIへの対応 ~著作権局報告書『著作権とAI』を中心に~
芸団協・著作隣接権総合研究所 榧野睦子
生成AI技術の急速な発展やそれに伴う市場の変化は、著作権分野で新たな課題を提起しているが、実演家の場合には、
その肖像や声が無断に使用されることでも、大きな影響を受けている。
アメリカ著作権局は、生成AIと著作権に係る課題について、様々な観点から調査研究を行い、報告書を公表している。
本稿では、肖像や声の無断使用について取り上げた『第1部 デジタル・レプリカ』を中心に紹介する。
これまでの経緯及び各報告書の概要
アメリカでは、生成AIの開発・学習段階での著作物の使用に関し、多くの訴訟が提起されている。また、著作権局はAI生成物あるいは生成AIを使用して作成した作品の著作権登録申請に対し、著作物にあたるか否かの難しい判断を迫られてきた。一方で、生成AIによる肖像や声の不正使用に対し、州法や連邦法で対応しようとする動きも活発化している。
このような状況下、著作権局は政府での検討に資するべく、生成AIに関する著作権法上の課題について調査研究を行い、『著作権とAI』と題した報告書を複数回に分けて公表している※1。
『第2部 著作物性』では、AI生成物が著作物にあたるか否かについて検討している。人間による創作を保護するという著作権法の原則により、人間が寄与しないAI生成物は著作権法で保護されない。したがってAI生成物の著作物性については、人間の寄与の度合いに応じて、事案ごとの判断となる。AIがツールとして使用される場合や人間が表現的要素を決定できる場合には、著作権で保護されうる。ただし、現段階では、プロンプトだけではこの要件を満たす可能性は低い。この問題については既存の法律で十分対応できており、法改正は必要ないと結論づけている。
『第3部 生成AIトレーニング(未定稿)』は、生成AI開発・学習段階での著作物の利用をテーマとしている。技術的背景及び著作権侵害にあたる可能性がある行為について整理した上で、フェアユースの抗弁が認められるかについて、著作権法が示す四つの考慮要素に基づき分析している。当然事案ごとの判断になるとしつつも、第1考慮要素(使用の目的及び性質)と第4考慮要素(著作物の潜在的市場又は価値への影響)が、分析においてかなりの重きが置かれると予想する。そして、第4考慮要素の分析では、「市場の希釈化(market dilution)」という新たな理論を導入。学習に用いた著作物と全く同じでなくても、作風が似たAI生成物が市場を飽和させることで、元の著作物の価値や需要が大きく損なわれる可能性があると指摘する。ライセンスの供与については、現時点では、強制許諾のような法改正による対応ではなく、ライセンス市場を発展させるべきとしている。
なお、トランプ政権に入り、安全面を重視し、AIを規制するバイデン政権の政策方針から、イノベーションの促進を重視し、規制を緩和する方針へ大きく舵を切っている。第3部未定稿版を公表直後、著作権局長が解雇され(2025年9月に復職)、著作権侵害AI生成物に対する法的責任に係る報告書第4部は、2025年11月末現在、公表されていない。
| 2023.3 | 著作権局がAIに関する新たな取り組みを開始。その一環として、AI生成物を含む著作物の著作権登録の手引きを公表 |
| 2023.4-5 | 著作権局が著作権とAIに関する公聴会を計4回開催 |
| 2023.6-7 | 著作権局が著作権とAIに関する2回のウェビナー開催 |
| 2023.8-12 | 著作権局が著作権とAIに係る政策課題について意見募集。1万超の回答を得る |
| 2023.10 | バイデン前大統領がAIに関する大統領令発出。特許商標庁長官に対し、著作権とAIに関する行政措置について大統領に勧告を行うよう指示 |
| 2024.7 | 著作権局が著作権とAIに関する調査研究報告書『第1部 デジタル・レプリカ』公表 |
| 2025.1 | トランプ政権発足。2023年10月の大統領令を撤回し、新たにAIに関する大統領令発出。科学技術担当大統領補佐官等に対して、発令から180日以内に、行動計画を策定し、大統領に提出するよう指示 |
| 2025.1 | 著作権局が著作権とAIに関する調査研究報告書『第2部 著作物性』公表 |
| 2025.2 | 著作権局が著作権とAIについて経済的側面から検討を行った報告書公表 |
| 2025.5 | 著作権局が著作権とAIに関する調査研究報告書『第3部 生成AIトレーニング(未定稿)』公表。翌日、シラ・パールマッター著作権局長がメールにて即日解雇される。パールマッター氏は連邦裁判所に解雇への異議申し立て |
| 2025.7 | AI行動計画公表 |
| 2025.9 | 連邦控訴裁判所が著作権局は立法府の一部であり、パールマッター氏を解雇できるのは大統領ではなく、上院が承認した議会図書館長であるとして、復職を認める |
| 2025.10 | トランプ政権が最高裁に控訴 |
第1部報告書『デジタル・レプリカ』の概要
第1部報告書ではデジタル・レプリカ(特定の人物の肖像や声を本物そっくりに再現した画像、映像及び音声)の不正使用の問題を取り上げている。公聴会等で、音楽業界関係者から、クローン音声の急増により収入が減るのではないか、レコード製作に人間の歌手、演奏家ではなく、AIが使用されることになるのではないかと懸念する声が聞かれたという※2。
デジタル・レプリカは実演家の仕事を奪うという懸念は、エキストラ俳優や声優について、すでに現実のものとなりつつある。著名人の偽動画・画像を用いた詐欺や、ポルノ画像・映像の捏造による誹謗中傷など、デジタル・レプリカの不正使用は、実演家はもちろんのこと、誰でも被害を受ける可能性がある。
CPRA news Review Vol.6 (2024年7月号)「生成AIと実演―パブリシティ権を巡るアメリカの動向―」で紹介した通り、この問題に対処すべく、すでに法律を定める州もある。ただし、肖像と声に関する米国の法律にはバラつきがあり、誰が保護され、どのような行為が禁止されるかについて、抜け穴や矛盾が見られる。本報告書では、被害の大きさや拡散の速さからも、著名人だけでなく、すべての人々を肖像や声の不正使用から保護する新たな連邦法の制定が急務であると結論付けた。その上で、デジタル・レプリカ権の概要を示している(表2)。
| 保護対象 | ・知名度、商業的価値に関係なく、全ての人とすべき |
| 侵害行為 | ・まずは公衆への拡散行為を禁止すべき、作成行為単独で責任を課すべきでない ・商業利用に限らない ・実在の人物の無許可でのデジタル・レプリカと知っての行為を対象とすべき |
| 保護対象ライセンス及び譲渡 | ・ライセンスはできるが、完全譲渡はできないようにすべき ・団体交渉によるものを除き、ライセンス期間を比較的短期間に限定すること ・利用方法について十分な開示を受けた上でのライセンスを確実なものとすべき ・未成年者との契約には安全措置を講じることが望ましい |
| 救済 | ・金銭的救済と差止による救済を盛り込むべき ・損害賠償には所得喪失、信用の毀損又は精神的苦痛への補償を含むべき ・法定損害賠償や弁護士費用の敗訴者負担を盛り込むべき ・刑事責任が問われるべき無許可使用もある |
| 保護期間 | ・存命中の保護を優先すべき ・死後については、20年より短い保護期間とすべき。商業的利用価値が存続す るのであれば、延長の選択肢もありうる |
| 二次的責任 | ・ノーティス・アンド・テイクダウン手続きを含むセーフハーバー条項は効果的なアプローチである |
| 表現の自由との関係 | ・憲法修正第一条との関係を明示することが重要 ・適用除外となる行為を限定列挙するのではなく、事案ごとに、パブリシティ 権と表現の自由との利益衡量を行うアプローチが望ましい |
| 州法との関係 | ・連邦法を州法より優先させないこと |
FAKES 法案の概要と課題
肖像や声に係る知的財産権を創設し、個人を無許可でのデジタル・レプリカの悪用から保護することを目的とした連邦法案、NO FAKES 法案は、2024年7月、本報告書の公表日と同日に上院に、同年9月、下院にそれぞれ提出された。
同法案は、CPRA news Review VOL. 6で紹介した討議草案から、本報告書に沿って主に次のよな修正がされている。まず、ライセンスに関して、存命中は契約期間を10年以内とすることや、デジタル・レプリカの使用方法を明確に示すことなどを義務付けるとともに、未成年時の契約に一定の制限を設けている。また、死後の保護については、最初の保護期間を10年とし、期間満了前の2年間に、その肖像等が積極的かつ公に利用されたことを証明し著作権局に登録すれば、5年ずつ、死後70年まで延長できることとしている。救済については、損害賠償請求に加え、差し止め請求も可能とするとともに、レコーディング・アーティストについては、レコード会社等が代わって民事訴訟を提起できることとした。さらに、オンライン・サービス・プロバイダの責任を制限するセーフハーバー条項も設けられた。同法案は、映画俳
優組合・米国テレビラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)、全米レコード協会(RIAA)、モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)といったエンタテインメント業界団体だけでなく、Open AI、IBMといったAI開発企業も支持を表明した。
しかしながら会期中に成立せず廃案となったため、2025年4月、修正法案が上下院に提出された。2025年法案では、無許可でのデジタル・レプリカの作成行為は、民事責任の対象から除かれた。一方、本人の許可を得ずに特定の個人のデジタル・レプリカの作成のために主に設計された製品やサービスを一般に利用できるようにする行為や、本人の許可を得ていないことを知りながら、こうした製品やサービスの宣伝や販売促進をする行為は民事責任を負うことが、さらに明確にされた。
またオンライン・サービスの定義を幅広く修正するとともに、特定のウェブサイト等は、削除通知で特定されたデジタル・レプリカのフィンガープリントとマッチしたものは全て削除等する(いわゆる「ノーティス・アンド・ステイ」)義務を負うことが追加された。削除通知を受けとる指定代理人の著作権局への登録を怠ったプロバイダは、誠実な努力をしなかったとして、より重い責任を負わされる。さらに発信者情報開示請求手続きについての規定も追加された。
その一方で、プロバイダに監視義務はないことを明記した。削除通知で特定した対象がデジタル・レプリカにあたるかどうか誠意をもって見直さなかった場合も虚偽の通知に含めることとし、虚偽の通知をした者には、民事責任に加え、2024年法案よりも重い罰金が科される
こととした。2025年法案の支持企業には、新たにYouTube、Googleが加わっている。パブリシティ権の研究者として著名なジェニファー・F・ロスマン教授は、同法案では生前の権利譲渡は認めていないものの、権限を与えられた代理人が代わってライセンスできることや、団体協約が締結される場合には、その対象となる個人に対し、ライセンス契約の書面での提示、具体的な使用方法の明示が義務付けられなくなることによって、自身のデジタル・レプリカの使用がコントロールできなくなる恐れがある点や、表現の自由との関係について懸念を示している※3 。また、ノーティス・アンド・ステイ義務を課すことで、プロバイダには多額の継続的なコストがかかるだけでなく、オンライン・サービスへの参入障壁が高まり、小規模事業者は市場からの撤退を余儀なくされる可能性があるとの批判もある※4 。
2025年5月、ディープフェイクなどに対処するための法律、TAKE IT DOWN法が施行された。同法では、合意のない性的画像の公開を犯罪として刑罰の対象とする。さらに、特定のウェブサイトやアプリに対し、被害者からの要請があれば48時間以内にそのような画像を削除
することを義務付けている※5 。NO FAKES 法案支持者は、同法案はTAKE IT DOWN法を補完するものであり、早期成立を働き掛けたいとしている※6 。日本でもデジタル・
レプリカの不正使用は、実演家に限らず、全国民にとって深刻な問題である。今後も注視していきたい。
【注】
※1 同報告書は著作権局ウェブサイトより入手できる(https://www.copyright.gov/ai/)。なお、各報告書の概要は、榧野睦子「著作権とAI―米国著作権局報告書を中心としたアメリカの対応①~③」(公益社団法人著作権情報センター、『コピライト』、No.771 Vol.65, No.772 Vol.65, No.774 Vol.65参照のこと) (▲戻る)
※2 https://www.wipo.int/en/web/wipo-magazine/articles/us-copyright-officeon-
ai-human-creativity-still-matters-legally-73696 (本稿のURL最終閲覧日は2026年1月15日)(▲戻る)
※3 https://www.theregreview.org/2025/08/18/rothman-reintroduced-no-fakes-act-still-needs-revision/ (▲戻る)
※4 https://ccianet.org/articles/the-real-costs-of-the-no-fakes-act/ (▲戻る)
※5 https://www.congress.gov/crs-product/LSB11314 (▲戻る)
※6 https://www.techpolicy.press/transcript-senate-holds-hearing-on-ai-deepfakes-and-the-no-fakes-act/ (▲戻る)



