CPRA news Review

他の記事を探す
カテゴリで探す
記事の種類で探す
公開年月で探す

スペインにおける実演家の権利について ―AIEの取り組みを中心に―

法制広報部 君塚陽介

スペインでは、実演家の権利保護の実効性を確保するため、日本にとって馴染みのない、いくつかの制度を有している。
2025年2月にはAIEの関係者が芸団協CPRAへ来訪し、意見交換が行われ、わが国の実演家の権利保護に対して示唆するところもあった。
そこで、本稿では、スペインのAIEの取り組みについて紹介する。

スペイン著作権法の沿革

スペインは、1886年のベルヌ条約創設に参加した署名国の一つであり、著作権保護の意識が高い国の一つといわれる ※1。19世紀末に著作権保護に関するいくつかの法律が制定されると、20世紀の新たな技術動向に対応するため、法改正の議論が進められ、1987年法が成立することになる。この1987年法において、著作隣接権が初めて認められ、実演家は、レコード・視聴覚製作者や放送事業者とともに保護されることになる。この1987年法は、その後も数度の法改正などが行われた。そしてこれらの法改正を、整理統合し、全面改正する形で1996年法が制定され、スペインにおける現行著作権法となっている。そして、この1996年法も、その後に採択されたEU指令などを踏まえて法改正が行われている。

また、スペインは著作隣接権に関する条約として、1991年にはローマ条約に、2009年にはWIPO実演・レコード条約に、それぞれ加盟している。

AIEの概要

スペインでは、著作権等の集中管理を行うためには、文化省の認可を受けなければならない(147条)。AIEは、音楽実演に係る権利の集中管理団体として、1989年に設立されている。およそ36,000人の権利者を代表し、2024年度には5125万ユーロ(約82億円 ※2)を徴収している。このうち、国内からは4466万ユーロ(約71億4500万円)、海外からは659万ユーロ(約10億5400万円)を徴収し、4428万ユーロ(約70億8400万円)が権利者に対して分配されている。

また、映像実演に係る権利は、AIEとは別にAISAGという団体が存在し、集中管理を行っている。なお、音楽著作者の権利の集中管理団体としてSGAEが、レコード製作者の権利の集中管理団体としてAGEDIという団体が存在する。

スペインにおける実演家の権利

スペイン著作権法において「実演家」とは、著作物を演奏したり、歌唱したり、演じる者とされ、日本と同様に、舞台演出家や指揮者も「実演家」として保護している(105条)。実演家には、財産的な権利として、固定権(106条)、複製権(107条)、公衆への伝達権(108条)及び頒布権(109条) ※3が与えられている。また、人格的な権利として、氏名表示に関する権利や、名誉声望を害する実演の改変に対して異議を申し立てる権利が認められている(113条)。

以下では、AIEが集中管理する、いくつかの権利について見ていく。

(1)レコード演奏、伝達権の管理
実演家に与えられる公衆への伝達権には、演奏・上演や有線・無線による放送などのほか、固定された実演についての利用可能化も含まれている(108条1項b号)。
実演家の許諾を得て固定された実演については、演奏・上演や放送に係る公衆への伝達権は適用されないが(108条1項a号)、商業目的に発行されたレコード又はその複製物を、利用可能化する場合を除いて、公衆への伝達に利用する者は、実演家及びレコード製作者に単一の衡平な報酬を支払わなければならず、この報酬は実演家とレコード製作者との間で均等に配分されなければならない(108条4項)。そして、この単一の衡平な報酬は、集中管理団体を通じて行使されるとしている(108条6項)。

徴収先には、テレビやラジオ局、レストランやバー、ホテルのほか、ウェブキャスティングも含まれており、AIEとAGEDIとの合同集中管理機関(OCR)が報酬を徴収し、AIEとAGEDIに、50:50で配分している。この公衆への伝達に基づく報酬は、AIEの国内徴収総額のうち63.1%(約2818万ユーロ、約45億880万円)を占めている。

(2)利用可能化権の譲渡に伴う報酬請求権
EUでは、1996年に成立したWIPO実演・レコード条約(WPPT)に対応するため、2001年に情報社会指令を採択し、音と映像とを問わず、固定された実演について利用可能化権を定めた。この情報社会指令を受け、スペインでは、2006年改正により、実演家に対して、固定された実演について、公衆への伝達の一部として利用可能化権を与えることになった(108条1項b号)。この利用可能化権の許諾には書面が必要としつつ、実演家がレコード製作者との間でレコーディング契約を締結する場合には、反対の合意がある場合を除き、利用可能化権はレコード製作者に譲渡されるものと推定している(108条2項)。しかしながら、この利用可能化権が譲渡される場合には、実演家には、その実演を利用可能化する利用者に対して、放棄することができない衡平な報酬を請求する権利が与えられ(108条3項)、この報酬請求権は、集中管理団体を通じて行使することができるとした(108条6項)。

この報酬請求権に基づいて、AIEでは、2011年から、報酬請求権の管理を開始し、SpotifyやNetflixなどの大手のプラットフォームなどから報酬を徴収し、2024年の国内徴収額のうち、17.48%(約780万ユーロ、約12億4800万円)を占めている。

(3)保護期間延長と追加報酬請求権
1993年にEU域内における著作権及び著作隣接権の保護期間を調和するために、保護期間指令が採択された。この保護期間指令は、2011年に改正され、レコードに固定された実演やレコードの保護期間を50年から70年に延長した。しかしながら、保護期間を延長しても、権利を製作者に譲渡してしまった実演家にとっては、経済的な利益がもたらされないため、いくつかの措置が講じられることになった(保護期間指令3条2b項から2e項)。

スペインでは、このような保護期間指令の改正を踏まえて、2014年改正により、レコード製作者は、発行から50年を超えるレコードの複製、頒布及び利用可能化から生じる収入の20%を、排他的権利について買取契約を締結している実演家のために集中管理団体に拠出しなければならないこととしたのである(110条a)。この追加定期報酬に係る徴収は、AIEにより2017年に初めて分配が行われ、直近では、2023年に24万ユーロ(約3840万円)が分配されている。また、2024年徴収総額の0.90%(約40万ユーロ、約6400万円)を占めている。

結びに代えて

2023年のスペインのレコード音楽産業の市場規模は、5億2000万ユーロ(約832億円)とされ、前年から12.3%成長している。この75%にあたる3億9000万ユーロ(約624億円)がストリーミングの市場規模となっている ※4

実演家の貸与に係る排他的権利が製作者に譲渡された場合、実演家に放棄できない報酬請求権を与え、集中管理団体がこれを行使する仕組みは、1992年に採択されたEUの貸与権指令に見ることができる(貸与権指令3条及び5条)。貸与権指令は、貸与に係る排他的権利を対象とするものであるが、スペインでは、デジタル・ネットワーク時代に対応する利用可能化権について、同様の仕組みを、2006年改正により導入したことになる。2006年当時における全世界のストリーミングの市場規模は1億ドル程度であったものの、2023年には、193億ドルにまで成長している ※5。このようにして見ると、スペインの取組は、デジタル環境における実演家への対価還元方策を先取りしたものと言えよう。日本における議論においても参考となるだろう。




【注】
※1 駒田泰土訳『外国著作権法令集(22)』はしがき(著作権情報センター、1998) (▲戻る)
※2 以下、1ユーロ=160円で換算 (▲戻る)
※3 頒布には、有償または無償による貸与が含まれる(19条1項) (▲戻る)
※4 AIEパンフレットによる (▲戻る)
※5 IFPI"Global Music Report 2024"による (▲戻る)