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放送番組のインターネット同時配信等に関する著作権法改正について藤原浩氏に聞く

藤原 浩(弁護士、橋元綜合法律事務所、芸団協CPRA顧問弁護士)

テレビ放送番組のインターネット同時配信等については、2020年4月にNHKが同時配信及び見逃し配信サービスの「NHKプラス」を開始、民放5社も2021年度内に始める方針を明らかにしている。放送番組のインターネット同時配信に関する権利処理を円滑にする目的で2021年5月に著作権法が改正されたが、実演家への影響が大きいといわれるため、藤原浩弁護士に話を伺った。(取材日:2021年10月1日)

最初に今回の法改正全体に対する印象、お考えを教えて下さい

放送番組のインターネット同時配信等に係る実演家の権利については、すでにレコード実演は芸団協CPRAを通じて、放送実演はaRma(アルマ)※1を通じて、支障なく権利処理がなされています。そのため、今回の法改正により権利処理が円滑になるような場面は、極めて限定的であるように思われます
その意味で、果たしてこのような法改正が本当に必要だったのか、疑問を感じております。

その一方で、今回の法改正には、実演家の権利に重大な影響を及ぼすような内容が含まれております。今回導入された権利制限規定許諾推定規定は非常に複雑で、わかりにくい内容となっています。
適用される範囲は限定的なものと説明されておりますが、実際の運用において、権利制限規定や許諾推定規定が拡大して適用されるおそれもあり、実演家としては十分に留意する必要があると思います。

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今回の法改正の対象となるサービスの範囲として、「放送同時配信等」という定義が新たに設けられましたが、これについてどうお考えでしょうか

今回の法改正では、「放送同時配信等」という定義の下で、放送と同時にコンテンツが配信されるリニア・サービスの「同時配信」と、視聴者からの個別の要求に応じてコンテンツが配信されるオンデマンド・サービスの「追っかけ配信」や「見逃し配信(原則、放送等から一週間以内)」が一括りとされ、同一の利用形態として、権利制限や許諾推定の対象とされております。

一方、国際条約においては、レコード実演に関し、「同時配信」は「公衆への伝達」として報酬請求権が適用され、一方の「追っかけ配信」や「見逃し配信」は「利用可能化」として排他的許諾権が適用されており、両者は明確に区分されております。 今回の法改正は、排他的許諾権とされるオンデマンド配信まで権利制限の対象としており、国際条約との整合性を満たしているのかという問題があると思います。

放送の同時配信に付随した限定的な配信サービスなので、権利制限しても、さほど影響はなく、許容される範囲だという考えがあるのかもしれません。
しかし、一定期間とはいえ「見逃し配信」サービス自体が許諾権を前提とするビジネスモデルとしてすでに確立していることを考えると、その影響は無視できるものではなく、このような権利制限規定の導入が条約との関係で本当に許されるのかという疑問は残ります。

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レコード実演については、どのような法改正がなされたのでしょうか

レコード実演を放送で利用する場合は事前に許諾を得る必要がなく二次使用料を支払えばよいのですが、インターネット配信をする場合には送信可能化権が働き、事前に許諾を得る必要があります。
そのため権利の集中管理等がされていないレコード実演については個別に許諾を得ることが負担であるとして、改正された94条の3では、レコード実演の放送同時配信等について、権利制限を認める規定、すなわち、許諾を得ることなく、通常の使用料に相当する補償金を支払えば、レコード実演を放送同時配信等に利用できる場合について定めております。

とはいえ、放送番組で利用されるレコード実演のネット配信については、すでに芸団協CPRAや日本レコード協会を通じて円滑な権利処理がなされております。
このため、この権利制限規定が適用されるのは、芸団協CPRAや日本レコード協会による集中管理の対象外のものであって、連絡先等文化庁長官が定める情報を文化庁長官が定める方法で公開していない「被アクセス困難者」のレコード実演に限定されております。

したがって、この権利制限規定が適用される場面は限られたものになると思われますが、「文化庁長官が定める情報」及び「文化庁長官が定める方法」が規則等でどのように定められるかにより、被アクセス困難者の範囲が変わってくるので、注視する必要があります。
また、限定された範囲であるにせよ、このような制限規定が国際条約との関係で問題となるおそれがあることはすでに指摘したとおりです。

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映像実演については、どのような法改正が行われたのでしょうか

まず、改正された93条の3として、実演家が放送だけでなく、放送同時配信等も許諾をした場合には、その番組のリピート放送(再放送)も事前の許諾を得ずに放送同時配信等ができると規定しています。
そして、改正された94条では、連絡することができない実演家の実演について、文化庁長官が指定する指定補償金管理事業者において被アクセス困難者であるとの確認を受け、同事業者に補償金を支払うと、その実演を放送同時配信等することができると規定されております。

しかしながら、実演家の権利に関し、放送番組の配信などの二次利用については、aRmaが集中管理(非一任型を含む)による権利処理を行っており、実務上も定着しております。このため、93条の3の規定では、aRmaによる集中管理が行われているものや、芸能プロダクションのウェブサイト等で連絡先が明らかな実演家については、適用の対象外と規定されております。したがって、この条項が適用される範囲は限定的なものになると思います。

一方、連絡もとれない被アクセス困難者である実演家の実演の放送同時配信等について94条を利用しようとする場合、その前提として指定補償金管理事業者の存在が必要である上、被アクセス困難者の確認を受けるための要件を満たす必要もあり、権利者不明の場合の裁定制度と比較して、果たしてどの程度利用が円滑になるのかという疑問もあります。新制度として法改正されたものの、実際にどの程度活用されることになるのか、今後の動向を見極める必要があると思います。

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93条の3及び94条の3の「指定報酬管理事業者」、94条の「指定補償金管理事業者」とは、どのような事業者でしょうか

93条の3及び94条の3については、文化庁長官が指定する著作権等管理事業者があれば、その指定報酬管理事業者に被アクセス困難者の報酬を支払うことになります。一方、94条については、文化庁長官が指定する著作権等管理事業者、すなわち指定補償金管理事業者に補償金を支払うことで初めて被アクセス困難者の映像実演を利用することができます

被アクセス困難者とは、CPRAやaRmaが集中管理している実演家及び「文化庁長官が定める方法」により、連絡先等「文化庁が定める情報」を公表している実演家以外の実演家です。
この「文化庁長官が定める方法」及び「文化庁長官が定める情報」は規則で定められることとなっておりますが、被アクセス困難者の範囲や報酬及び補償金の規模と、それに比しての指定報酬管理事業者及び指定補償金管理事業者の業務負担の大きさが見えていません。
いずれにしても権利者への過重な負担のない制度運用が望まれます。

新たに導入された許諾推定規定は映像実演にも適用されます

今回の法改正において、実演家に一番大きな影響があるのは、63条5項に定める「許諾推定規定」の導入だと思います。放送同時配信等を行っていることが明らかな放送事業者に対し、放送の許諾をした場合には、別段の意思表示をした場合を除き、放送同時配信等の許諾も含むと推定するというものです。

従前の著作権法では、放送前の録音・録画について、放送事業者の利便性実演家の保護を次のように調整してきました。
93条では、実演家から放送の許諾を得た放送事業者は、許諾契約で別段の定めがある場合及び当初の放送番組と異なる番組に使用する場合を除き、その実演を放送のために録音・録画できると規定していました(※なお、今回の法改正で、この権利制限規定は放送同時配信等にまで適用されることになりました)。
その一方で、放送の許諾は録音・録画の許諾も同時になされたかのような誤解が当事者間で生じやすく、また一般に放送事業者の方が力関係で優位に立つため、契約内容が不明確な場合には実演家が譲歩せざるを得なくなります。
そのため、63条4項で、契約で別段の定めがない限り、放送の許諾には録音・録画の許諾を含まないと規定されており、93条1項で放送のために固定(録音・録画)された実演は、許諾した放送以外の目的で利用することは許されないとされておりました。
これまで放送番組の二次利用の権利処理実務においても、同様の考え方で処理されており、許諾した放送以外の番組の二次利用については権利処理が必要とされてきました。

ところが、今回の法改正により、放送の許諾があれば、放送とは異なる放送同時配信等の許諾も含むと推定されることになり、放送事業者は、放送及び放送同時配信等のために実演を固定することも認められました。
今までは、実演家にとって、放送の許諾をした実演は、黙っていても、放送利用に限るという原則が適用されておりましたが、今回の法改正により、この原則が大きく変更されたことになります。
若手など著作権法を良く知らない実演家が、この規定のために大きな不利益を被ることにならないか心配しています。

立法過程において、現行の契約秩序や権利者にとって不利益を強いられる懸念もあることから、その払拭のためにガイドラインを策定し、この推定規定が適用される範囲を明確にすることが提言されました。

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「放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン」が8月に公表されました

ガイドラインの中で重要だと思われるのは、「集中管理がされている著作物等について契約を締結する場合には、契約時点で放送同時配信等での著作物等の利用の有無が明確になっていると考えられるため、本規定の適用はないものと考えられる」と記載されている点です。
このガイドラインによれば、放送番組の二次利用について集中管理をしているaRmaに属する権利者については、許諾推定規定は適用されないということになります(なお、ガイドライン案に対する意見に対して文化庁が示した考え方では、「『集中管理』には、いわゆる一任型のみならず非一任型(著作権者自身が管理する)も含まれると考えます」としています)。

2021年10月1日現在、放送番組の同時配信をしているのはNHKだけですが、本年度中には民放各社も同時配信を開始すると報道されております。
このガイドラインによれば、これまでのaRmaによる権利処理実務は維持され、番組の二次利用としての権利処理は引き続き必要となります。
ただ、許諾推定規定の条文自体では、集中管理されている権利者について、その適用が除外される旨までは明記されておりません
このため、aRmaに権利を委託した実演家であっても、この許諾推定規定は適用されると勝手に解釈する者も現れ、トラブルが頻発するおそれもあります。
また、このような規定ができることで、実演家の権利は制限してもいいんだ、という考え方が定着することへの懸念もあります。そもそも、このようなガイドラインで適用範囲を明確にしなければならないような不明確な法律を作ること自体に問題があると思いますが、現時点では、ガイドラインの趣旨・内容について、関係者に周知徹底してもらうことが必要だと思います。

許諾推定規定の導入については、海外の権利者からも懸念が示されており、ガイドライン案の意見募集にも多くの意見が寄せられました。国際条約との関連で懸念はあるでしょうか

はじめにお話したとおり、「放送同時配信等」という定義の中で、同時配信だけでなく、一定の期間とはいえ、法的性質の異なる「追っかけ配信」や「見逃し配信」などのオンデマンド配信まで一括りとして権利制限や許諾推定の対象とした点は大いに問題となると思います。
米国政府からも、ガイドライン案に対する意見として、オンデマンド配信を許諾推定の対象外とすべきと指摘されておりますが、ガイドラインというよりも、「放送同時配信等」という定義で権利制限や許諾推定を導入した今回の法改正に対する条約上の問題点を指摘しているのではないでしょうか。
条約は法律よりも上位の法規であって、条約の範囲内で法律を制定する必要があります。グローバルな時代において、著作権制度の国際調和が求められる中、今回の改正案のような日本独自の考え方が果たして通用するのであろうかと少し心配しております。

※芸団協CPRAは、国際調和の観点から、放送番組のネット同時配信に限らず、ウェブキャスティングやいわゆるレコード演奏・伝達権を含め、著作隣接権に係る国際条約上の「公衆への伝達」に係る権利の在り方について、広く見直しを行うべき旨を主張しています。

著作権分科会基本政策小委員会では、「DX時代に対応したコンテンツの利用円滑化とそれに伴う適切な対価還元方策」として、過去のコンテンツ、一般ユーザーが創作するコンテンツ、権利者不明著作物等の膨大かつ多種多様なコンテンツに関し、「簡素で一元的な権利処理」方策を検討しています。今回の法改正に続き、「簡素で一元的な権利処理」に関する法改正が検討される昨今の傾向について、考えをお聞かせください

DX(デジタルトランスフォーメーション)時代という錦の御旗を掲げれば、何をしても許されるということではないと思います。DX時代においては、データとデジタル技術を活用することにより、これまでは不可能であった多種多様なコンテンツに対する個別の権利処理を、より正確に、より瞬時に、より柔軟に行うことが期待されているのではないでしょうか。その意味で「簡素で一元的な権利処理」という言葉が、果たしてDX時代に対応するものなのか少し疑問に感じております。

また、利用者にとって「簡素で一元的な権利処理」は大変便利なものですが、そのために権利者の権利が蔑ろにされてはならないと思います。
利用者と権利者の双方にとって利益となる、複雑で多元的な権利処理を正確かつ瞬時に可能とするデジタル技術の活用こそが、DX時代に要求されるものであると思います。
言葉に踊らされるのでなく、デジタル技術の可能性をしっかりと見極め、地に足のついた議論を展開して欲しいと思います。

【注】

※1 一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構 https://www.arma.or.jp/index.html (▲戻る)


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藤原 浩(弁護士、橋元綜合法律事務所、芸団協CPRA顧問弁護士)

【略歴】
1979年 東京大学法学部卒業
1981年 弁護士登録(東京弁護士会)
2004年 最高裁司法研修所民事弁護教官(2007年まで)
2011年 東京弁護士会副会長
2012 年 日本弁護士連合会司法修習委員会委員長
2013年 公益財団法人日弁連法務研究財団常務理事
2018年 最高裁司法修習委員会委員