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"不要不急"から立ち上がるために

(一社)コンサートプロモーターズ協会 会長/㈱ディスクガレージホールディングス グループ代表 中西健夫

 プロモーターにとって、アーティストはいなくてはならない存在です。アーティスト自身の意向も千差万別ある中で、プロモーターは状況を読み、培った目線を生かしてどういった場づくりをしていくかを考えます。

 2000年以降は、よりリアルを求めた時代で、ライブをやる力があるということがアーティストのポイントの一つになりました。90年代は、CDバブルとともに、楽曲も素晴らしくライブ力もあるバンドがたくさん出てきました。ドーム、アリーナ等の大規模ライブが可能な会場が増えたことで動員数が伸び、フェスが定着化したことが、2000年代に入ってライブ市場が活況を呈した要因だったと思います。
 また、アーティストのキャリアが長くなり、ファンの年齢層が広がったことも大きな変化です。ライブは、若者文化から家族で楽しめる大衆文化へと進化し、親子間のコミュニケーションにも音楽は大きく関与していると思います。

 しかし、コロナ禍の中、ライブハウスでのクラスターが発表されて以降、エンタテインメントは不要不急の部類に入れられ、未だにそのイメージを払しょくできていません。不要不急と一括りにせず、「ガイドラインを守ってライブに行ってください」という一言があるだけでも、随分と世の中のムードは違ったと思います。

 オンライン配信という新たな手法も加速度的に広がりましたが、配信だけでは限界があります。ファンの年齢層によっては、配信ライブのチケット購入・視聴方法が分からず、楽しむことを諦める人も出ています。デジタルリテラシーの格差によって取り残される人たちが出ないように、オンライン配信という手法も取り入れた今後の展開を考えていかねばなりません。

 そして今、最も危惧していることは、ライブが開催されないことによる専門職の雇用喪失です。PAや照明だけでなく、舞台セットを組む鳶職等、専門的な技術を持つ人々がライブ業界から離れてしまっています。会場警備アルバイトも累計すれば全国でどれだけの雇用を創出しているかという、経済的な側面が見落とされ過ぎています。
 ツアーやフェスは、観光や外食業界とも深く関連しており、経済波及効果は非常に大きいものです。エンタテインメント業界は社会のインフラを支えている一つであることを、業界関係者以外にももっと認知してもらう必要があります。

 昨年、まだ政府の支援が未確定だった時期に、音楽業界の3団体が協力して「Music Cross Aid」ライブエンタメ従事者支援基金を立ち上げました。今後どう発展していくか課題はありますが、コロナ禍で何か行動を起こさなければいけない時期に、業界団体が協力して支援策を立ち上げた意義は大きいと思っています。

 我々は感染対策を徹底して、ルールを守りながら開催実績を積み重ねていくしかありません。
 コロナ禍のライブでは、お客様から声援代わりの拍手がいつまでも鳴り止まず、そんな場面に立ち会う度に感謝の気持ちで一杯になります。こんなライブはもう一生できないかもしれません。コロナ禍は早く終わってほしいけれど、むしろ今しかできない楽しみ方もあります。

 だからこそ、今できることをまずは最大限やるべきなのです。