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国籍に関係なく実演家は報酬の分配を受けられるのか ―ヨーロッパの事例から―

芸団協CPRA 法制広報部

 日本では商業目的で発行された音楽CDや配信音源等(商業用レコード)を放送番組等で使用する際、実演家及びレコード製作者には商業用レコード二次使用料が支払われる。EU加盟国では、これに加えて、商業用レコードを用いてレストラン等でBGM音楽を流す「レコード演奏(公衆への伝達)」についても報酬請求権を与えている。これはEU貸与権指令で、商業用レコードを放送又は公衆への伝達に使用する場合に使用者が支払う報酬を実演家とレコード製作者との間で分配するよう加盟国に課しているためである。この規定はローマ条約に基づき導入されたが、WPPT(1996年策定)にも同様の規定がある。
 この報酬を実演家とレコード製作者との間でどのように分配すべきか、特に本国以外の実演家の扱いについて、欧州司法裁判所が下した判断を紹介する。

これまでの経緯

 アイルランド著作権法の下では、商業用レコードを放送又はレコード演奏に使用する場合には、レコード製作者の集中管理団体PPIに使用料を支払わなくてはならない。実演家はレコード製作者に対する報酬請求権が与えられているため、その集中管理団体RAAPはPPIと協定を結び、PPIに支払われた使用料から実演家分報酬の分配を受け、国内外の実演家に再分配している。

 この報酬を受取る要件はレコードと実演とで異なる。
 レコードの場合、最初に欧州経済領域(EEA)で適法に発行されたレコードである。ただし、それ以外の国で最初に発行されたレコードでも、最初の発行から30日以内にEEAでも発行された場合(同時発行)には対象となる。
 一方、実演については、EEA域内の国民又は居住者による実演ないしEEAで行われた実演に限られる。そのため、対象外とされた実演家には分配されず、レコード製作者が報酬を独り占めするケースが生じた。大半は、EEAで同時発行されたアメリカのレコードに係るものである。

 WPPTの基本原則に基づき、ある締約国は、自国民に与えるのと同等の保護を他の締約国国民にも与えなくてはならない。ただし、報酬請求権を特定の使用形態等に制限したり、全く与えなかったりと、留保している締約国の国民に対しては、その留保と同程度の保護しか与えなくてもよいと例外的に認められている(相互主義)。アメリカ法は商業用レコードの放送及びレコード演奏への使用について実演家の報酬請求権を認めていない。そのためアイルランドは前述の相互主義に基づき、アメリカ国民である実演家に対して報酬を支払わないこととしていた。
 RAAPは、アイルランド法の規定は貸与権指令に違反していること、国籍及び居住地に関わらず、PPIが徴収した使用料は全てレコード製作者と実演家との間で分配されるべきである、として訴訟を提起した。アイルランド高等法院は貸与権指令の解釈について、欧州司法裁判所の判断を仰いだ。

欧州司法裁判所の判断

 先ずは、EU法秩序の主要な一部であるWPPTに可能な限り合致するよう貸与権指令を解釈しなければならない。そのためEU加盟国は、他のEU加盟国の国民にだけでなく、EU非加盟国(他のWPPT締約国)の国民である実演家及びレコード製作者にも報酬請求権を付与する義務を負う。

 次に、EU基本権憲章に基づき、相互主義を採る場合には必ず法律で定めなくてはならない。EU法だけがこれを定めることはできるが、加盟国にはこのような権限はない。実際、貸与権指令は相互主義について何ら定めていないので、現時点では留保の存在だけを理由にEU非加盟国の実演家の報酬請求権を制限することはできない。
 最後に、貸与権指令の文言に従えば、報酬はレコード製作者と実演家との間で「分配」されるものなので、加盟国が特定の国の実演家を分配の対象から外し、レコード製作者に全ての報酬を独占させることはできない、と判断した。

今後の影響

 Sound Exchangeなどアメリカの関係団体は、商業用レコードの放送及び公衆への伝達への使用について、国籍に関係なく全実演家に対し平等に報酬が支払われるべきであるとする"Fair Trade of Music" キャンペーンを行っている。そのサイトによれば、アメリカの実演家及びレコード製作者は相互主義により年に約3億3千万ドルの損失を被っているという。
 Sound Exchange は実演家の国籍やWPPT締約国の留保の存在にかかわらず、EEA加盟国で使用されたレコードに支払われた報酬は全て、実演家とレコード製作者との間で分配されなくてはならないとした欧州司法裁判所の判断を歓迎し、アイルランド以外のEU加盟国もこの判断に従うよう、そしてEUを離脱したイギリスとの自由貿易協定にも同様の内容を盛り込むよう働きかけていくと声明を出した。

 日本でも実演家及びレコード製作者にレコード演奏権が付与されていないために、海外での日本のレコードの使用について同様の損失を被っている。その一方で、日本は相互主義によりアメリカ盤には商業用レコード二次使用料の分配をしていない(デジタル有料放送を除く)。アメリカやEUの今後の動きを注視していく必要がある。