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コロナ禍で激変したライブエンタメ市場とオンラインライブの動向

月刊「B-maga」編集長 池和田 一里

新型コロナウイルス感染症拡大により、ライブ・エンタテインメント市場はどのように変化したのか。
また、この苦境を打破しようと取り組んだオンラインライブの現状と可能性について、ぴあ株式会社共創マーケティング室室長兼ぴあ総研所長の笹井裕子氏にお話を伺った。

好調だったライブエンタメ市場

 国内のライブ・エンタテインメント市場は、2000年以降右肩上がりで推移し、2011年以降から伸びが顕著になっている。音楽・ステージとも公演回数・動員数を伸ばし、全体の市場規模は2001 年の2,562 億円から2019 年には約2.46 倍の6,295億円へと拡大。特に2017年から2019年にかけては、大規模イベントや野外フェス、アリーナ公演回数の増加により、毎年過去最高記録を更新してきた。「市場拡大要因にはモノからコトへの消費行動の変化が挙げられます。SNSが普及拡大し、自分が経験し感動したものを友人に伝えたい、共有したいという思いを表現する楽しみ方が加わりました。アーティストとつながりたい&応援したい、友人と一緒にいたいといった、緩やかなキズナを大事にする意識、自分のストーリー内では自分が主人公という思いが、ライブやイベントの大規模化と相まって、市場規模を拡大してきたと思います」。もちろん、CD売上の減少という音楽産業の構造自体の変化もその一因だ。

元に戻るまで3年覚悟も

 東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、景気も加速していくと思われた矢先、新型コロナウイルス感染症拡大により環境が激変した。2020年2月、安倍前首相からのイベント自粛要請に加え、ライブハウスでのクラスター発生もあり、アーティスト側は自粛以前に自ら制限をかけた。緊急事態宣言が明けても自粛を継続し、今も本格的な再開の目途が立たない。ぴあ総研によると、中止や延期で売り上げがゼロまたは減少した音楽やスポーツイベント数は、2020年2月~2020年5月末だけで19万8,000本に達し、失われた入場料総額は約3,615億円に。今後の見通しは不透明なままで、損失は膨れ上がる。2020年のライブ・エンタテインメント市場規模の見通しは1,306億円と、前年の8割が消失するものと試算している(2020年10月25日時点試算額)。11月に入り第三波が押し寄せ、コロナ禍の終息はまだまだ先だ。「歓声を上げるポップスやロックは今も収容人数制限がかけられ、観客心理的にもなかなか厳しい状況。元に戻るまで約3年はかかると覚悟を決めないといけないのが現状です」。

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オンラインライブの台頭

 そうした中、オンラインライブが随所で起こり、多くのメディアに取り上げられている。「何かしなければと、皆さん危機感を持たれたと思います。ぴあが運営する動画配信プラットフォーム『PIA LIVE STREAM』の配信数は予想以上に増加しており、2020年6月~11月で3,000公演を超えています」。
ファンもリアルとは違う楽しみ方を発見している。「離れている友だちとSNSでコミュニケーションを取りながらライブを楽しんだり、通常は私語が難しいクラシックの公演中に語り合ったり、リアルの場ではできない楽しみ方もしています。テレビを見ている感覚 に近い楽しみ方を生み出しています」。
とはいえ、リアルライブの売り上げ減少分を補てんするまでに至っていないのが現状。コロナ禍の収束とともに、オンラインライブは姿を消すのだろうか...。笹井氏は、オンラインライブは今後も残り、リアルとオンラインのハイブリッドで展開されると考えている。「オンラインライブは、現在のパブリックビューイング市場と同等かそれ以上の規模になる可能性があります。映像制作やIT業界との連携が進み、新しい才能や技術を導入できたことは大きな進歩です。最新技術を用いた新サービスやコンテンツがこれからも誕生することでしょう。今後の5Gの普及とともに、ビジネスモデルも変わってくると思います」と期待を寄せる。

業界を守るため、 オンラインライブは続ける
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(一社)日本音楽制作者連盟理事長
(株)ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長
野村 達矢 氏

 2月26日、安倍前首相からの大型イベント自粛要請から、私たちライブ・エンタテインメントの世界は、世の中より1か月早くロックダウンを強いられました。2月以降、全てのライブが中止、もしくは延期となりました。しかし、会場を押さえていたこともあり、苦肉の策として、アーティストやライブハウスは、無観客でライブを行い、その模様をオンラインで配信する取り組みが随所で起こるようになりました。その取り組みは、"無観客ライブ" と称され、多くのメディアに取り上げられました。その後、さまざまな演出や配信手法によって進化し、名称も"オンラインライブ" へと変わり一つの新しいジャンルとなりました。
 オンラインライブは、大きく3つのスタイルがあります。ひとつは無観客ライブの延長線上にあるライブ映像をそのまま伝送するもの。2つ目が、東方神起が取り組んだ『Beyond LIVE』や、メンバーをアバターにして演奏したWONKのオンラインライブ等、AR等を活用したものや、インタラクティブ性を活用した長渕剛さんの事例等、最新テクノロジーを駆使した従来にはないタイプ。最後がライブ自体を映像作品として制作・配信する取り組みです。サカナクションが実施した『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』がこれに相当します。
 アーティストやプロダクションがコロナ禍のなか創意工夫し、さまざまな試みを行なった結果、話題となり、新しい効果が出ています。会場が遠い、子育てや仕事で忙しい、そして子供たち等、今までライブに行きたくても行けなかったファンがオンラインライブを楽しむようになりました。価格も2,000円~5,000円と手頃なこともあり、新しいマーケット層を取り入れることができました。また、海外を意識した展開も今まで以上に活発になったと思います。
 当然、デメリットもあります。週末に開催が重なり、レッドオーシャン化しています。週末のこの時間帯は、特に色々なエンタテインメントに接触する時。そもそも競争が激しく、本当に視聴できると確信したタイミングでチケットを購入するため、リアルライブに比べチケットが売れるスピードが遅く、事前の予算の確定化がしにくい。当然、配信や映像制作コストもかかる。生配信のトラブルへの対応としてアーカイブ化する際には、レコード会社によっては専属解放料の支払いも生じ、予算を圧迫します。
 アリーナクラスのアーティストのオンラインライブは、1回で数万人、数十万人の観覧者を集めます。一見、活況のように映りますが実情は違う。チケット購入売上は、ファンクラブ会員数の3~4割程度、全国ツアーを行うアーティストでも東京関東エリアでライブをしたときの動員数、例えば武道館でライブをするアーティストなら1万人程に留まるのです。また、生のライブの臨場感や躍動感が得られないこともあり、どんなに人気アーティストでも回数を重ねるごとに集客は減る傾向にあります。DVDが発売されるだろう、YouTubeで公開されるかもしれない等、買い控えされてしまうこともあります。
 それでも、オンラインライブをやる意義はあります。それは、「業界を守るため」。ライブを実施しない決断はできますが、それではステージを支えてくれるスタッフや関係者を守ることができません。どんなに経済的リスクがつきまとっても、やらないという選択肢ではなく業界の経済活動のためにもやるという選択肢をとるという考えです。
 新型コロナウイルス感染症が終息しても、オンラインライブは残り、リアルとオンラインのハイブリットで展開されると思います。むしろコロナ禍でない時こそ、オンラインライブは進化するでしょう。新しい映像表現や空間を提供することで、リアルでは体験できないライブが行え、表現としてさらに発展していく可能性があります。地方でライブを観たファンがツアー最終公演の東京のライブも観たいと思った場合にライブ映像をそのまま配信する形式のオンラインライブやアーカイブは有効。サブスクリプションプラットフォームやYouTube、radiko、オンラインライブとアーティストグッズのECサイトとの導線を構築することで、新たな収益源の可能性も感じます。
 また、オンラインライブは、ドメスティックな目線を捨てる良いきっかけにもなりました。これを機にグローバル展開をさらに加速していけばいいと思います。