SANZUI vol.01_2013 summer

裏舞台という名の表舞台

Text/Kiyoshi Yamagata   Photo / Anna Hosokawa

多くの人たちによってつくられる舞台。
主役のまわりに視線を転じてみると、
至る所にプロの技が輝いている。
舞台を支える人に光を当てる。

STAGE 02プロジェクションマッピング チームラボ

CG映像とパフォーマンスや舞台を融合させ、MR(Mixed Reality:複合現実感)を味わえるプロジェクション・マッピングが注目を集めている。劇団朱雀2代目早乙女太一が、映し出された影絵の動きと共にダイナミックな剣舞を舞台上で繰り広げたり、昨年のNHK紅白歌合戦の『嵐』の舞台では、斬新な映像表現による舞台演出が話題となった。さらには「水」をテーマにした三浦工業の「ウルトラピュアソフトウォーターCM」では、まるで本当に水中でパフォーマーが水と遊び、踊っているような不思議な感覚を味わえる。CG映像によって背景や空間を作り出し、演者と共演する。これらを手がけているのはテクノロジスト集団・チームラボ。CGアニメーターとして多数のプロジェクション・マッピングを使ったプロジェクトに関わってきた同社の寺尾実さんにその特徴や魅力を伺った。

「僕らがこれまで製作してきたプロジェクション・マッピング作品というのは、限られた時間軸の中で決められた演出を完璧に演じきることに美学がありました。実現するためには、優れた演者との共演が作品の鍵になっています。作品を作り上げるためには、演者と何度もリハーサルをして、身体にパフォーマンスを焼き付けてもらいます。同時に、演出や映像制作も、試行錯誤しながら進めていかなくてはなりません。その二つの要素を、限られた時間の中で作り上げていくのです。僕らチームラボは、テクノロジスト集団です。テクノロジーでカバーすることで、最終的なクオリティアップができないか? それを模索しながら「ウルトラピュアソフトウォーターCM」を製作しました。テクノロジー、演出、アイデア。そうした、さまざまな表現の要素を組み合わせることで、演者の動きなどに反応して空間自体を変化させる、このCM作品が生まれました」

チームラボにはCGアニメーターをはじめ、プログラマーやコンピューターヴィジョンなど、さまざまな分野のエキスパートが集結している。

「 アートや文化が大好きということもありますが、僕らは、技術だけでなく、演者や観客が感動するための手立てとは何かを常に考えて製作している。例えば、プロジェクション・マッピングという手法は、アニメや映像表現の中ではなく、現実空間で活用するという発想が新鮮だし面白い。CG映像が現実空間に飛び出していくような面白さです。手法自体よりも、飛び出すようにフレーム感覚がなくなったことが衝撃でした。アニメを含めたこれまでの映像表現では、まずはフレームありき。限られた枠の中に何をどう収めるかが一番重要でした。そこに技術や作業が集中します。ところが、この手法を使えば、空間自体を作ることができるのです。もはやフレームは存在しません。プロジェクション・マッピングの現実空間での活用の可能性は、これからもっと広がると思います。例えば、これまでは舞台を動かしたり、ライティングによる演出くらいしかできなかったライブも、空間を映像で演出することで、今まで体験したことがない感覚や感動が味わえるようになるのではないでしょうか」

まさに変幻自在。空間表現や演出効果におけるイノベーションともいえる。

「舞台芸術にも、さまざまな活用が考えられます。特に伝統芸能の歌舞伎で使ってみたいです。プロジェクション・マッピングを使うことで、瞬時に空間を変化させたり、拡張したり、劇場を縦横無尽に使った演出も可能になります。伝統芸能と最新技術とを融合させ、新たな表現と価値を生み出す。 考えただけでもワクワクします。プロジェクション・マッピングがそのきっかけとなってくれればとても嬉しいですね。今年は観客が感じたことのない体感、感覚をもっと演出していきたいと思っています」


 チームラボは、プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、CGアニメーター、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、絵師、編集 者など、情報社会のさまざまなものづくりのスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。 http://www.team-lab.net/