SANZUI vol.01_2013 summer

裏舞台という名の表舞台

Text/Kiyoshi Yamagata   Photo / Tomokazu Nishizawa

多くの人たちによってつくられる舞台。
主役のまわりに視線を転じてみると、
至る所にプロの技が輝いている。
舞台を支える人に光を当てる。

STAGE 01緞帳 龍村美術織物

劇場の主役は演者が繰り広げる舞台なのはもちろんだが、劇場には隠れた名脇役が存在する。その一つが緞帳である。舞台と客席との間を仕切り、実演の始まりと終わりの合図を果たす重要な役割なのだが、舞台好きでも緞帳がどのように作られているのかを知らない。京都の古き良き伝統技術を継承し、日本各地の劇場はもとより海外の緞帳も制作している京都の龍村美術織物制作部の谷口仁志さんと太田尚志さんのお二人に緞帳の話を詳しく伺った。

「当社には初代龍村平蔵が大正時代に独創と復元、そして美術感覚という3つの要素を織物に導入して、『美術織物』という言葉を浸透させてきた歴史がございます。緞帳で用いられるつづれ織りという手法は着物の帯などに使われる最もシンプルで自由度の高い織り方。初代平蔵が作品として取り組み、昭和天皇が秩父宮様ご成婚のお祝いにと依頼されたお品物にもつづれ織りが使われています。いわばお家芸でもあり、昭和30年代につづれ織りを用いて緞帳を作り始めました。縦糸を等間隔に真っ直ぐに張り、そこに横糸だけで模様を織り込んで行く。一番大きな特徴はシンプルな織り方なので、自由度がとにかく高い。千差万別な色や模様を用いて自由な発想で、ほとんどどんな緞帳でも織ることができます」

緞帳は伝統工芸の粋を凝縮させた美術織物であり、劇場の顔でもある。ではあれほど大きな緞帳は一体どうやって作られるのだろうか?

「まずは劇場の広さや構造を調査します。緞帳がそのまま上に跳ね上がる一枚飛ばしかドラムで巻き取る構造なのか?それによって幕の表面や厚みが決まる。そして実際の緞帳の大きさの20分の1の原画を画家の先生や当社制作部で描き上げます。その原画に基づいて糸を染色。糸は一切ストックしません。なぜかというと何よりも原画を忠実に再現することが重要であり、そのためには毎回色を徹底的に吟味して、別注で糸を染色。染まった糸は絵の具を混ぜる様に何色かを一緒にして撚り、さらに微妙な色合いを作ります。全てに妥協せずに自分たちの手で一から制作しているのがこだわり。染色と並行して原画を拡大して織り下絵を起こす。この設計図を縦糸を張った織機の下に敷き、職人が一目一目横糸を織り込む。一日20センチが限度ですね」

緞帳は大きな織機で力業で織っているのかと思いきや、さにあらず。一人の職人が一間(約180センチ)の横幅を担当して数人がチームプレイで制作している。

「工場というよりもここは体育館みたいでしょ。織り下絵を描く時は紙を床に広げて這いずり回って描いていますし、染色や糸の撚り、織る工程も、ほとんど全て昔ながらのアナログで手作り。何でデジタルや機械を使わないのかと聞かれますが、使いようがない。下絵を描く時は原画のタッチや細い線はコンピューターでは描けませんし、織る時も微妙な糸の締め加減や糸目の調節などは機械では決してできない。原画の忠実な再現と美術織物として緞帳を作るには熟練の手作業が不可欠です。私どもはみんな緞帳を作るのが大好きで楽しみながら作っていますから、できた時は本当に嬉しいですね。劇場で是非幕間にでも私たちが作った緞帳をじっくりと見て下さい。遠くから見て、今度は近くで細かい糸目も見て欲しい。つづれ織りの帯を締めて劇場でつづれ織りの緞帳を愛でる。芝居の楽しみの一つに緞帳を加えていただければこれほど嬉しいことはありません」


PROFILE 初代龍村平藏が1894年に創業以来、現在四代に至る。織物組織の実用新案をはじめ、正倉院宝物裂や古代裂、名物裂等の復元研究を行い、「創造と復元」の道を究め、織物美術を確立。四代龍村平藏の下、帯地をはじめ室内装飾裂,つづれ織緞帳などの創作織物を製作販売している。つづれ織緞帳は全国各地の公共施設、劇場に納入していて、本年開場した歌舞伎座にも納入している。