SANZUI vol.01_2013 summer

特集 声

Photo / Ko Hosokawa   Text / Kiyoshi Yamagata

自分でいうのも何だけど恐らく僕の声も良い声ですよ。
電話だけならどんな女でも口説けちゃう(笑)!
声のこだわり02 立川志の輔 落語家

昔も今も落語は見に行くものじゃなくて、聴きに行くって言います。芸の三大要素が「一声(いちこえ)、二節(にふし)、三演技」一番が声。良い声っていうのは、要するに高い低いだけではなくて幅のある声、いろんな味のある声ということでしょう。まず声が耳に心地良くないとお客さんは落語を1時間も2時間も聴いてくれない。一声二節、声でリズムや調子を取れ、そこからやっと演技なんです。どんなに演技が上手くても声がまずくちゃどうしようもない。

私の師匠談志は亡くなる最後まで、僕と仕事が一緒の時は、必ずお客さんに"俺とこいつとどっちが声が悪い"って、どっちが声が悪い合戦をやってました(笑)。声の出が悪いっていうのはあるけれど、声の質という意味では師匠の声も渋いし、自分でいうのも何だけど恐らく僕の声も良いほうですよ。電話だけならどんな女でも口説けちゃう(笑)。小学校の頃から君は良い声だねって先生や近所の大人に言われてたんですよ。中学3年の時に富山県の弁論大会中学生の部で優勝。その時に、これから一生懸命勉強してアナ ウンサーになれって先生に言われた。アナウンサーはいいなと思ったけど、その前の一生懸命勉強してっていうのが嫌だった。それで落語家です(笑)。

声の高い落語家は陽気になってお客様を笑わせる音域を持っている。人情噺や泣かせる噺なら低い方が良い。僕は人情噺が好きなもんですからダミ声というか領域が低いことがありがたい。声は鍛えたりしませんよ。昔の浪曲師や講談師は海に向かって叫んだり、声を潰したりして声を作った人もいそうですね。でも落語家はできれば楽に暮らしたい。辛いことをよけて通りたいから鍛えませんよ。

でもね、落語会は大きな会場でも、小さな会場でも遣ります。同じ一席やるのに100人と2000人だったら多い方が大変でしょうと言われますが実際は逆。小さいとお客さんの顔が見えて照れるんですよ。照れる自分を鍛える。大きな劇場だとお客さんが見えないから、かえって楽だったり、声の出し方も小さいと地声で演じなければならないけれど、大きな劇場だとマイクが聴かせてくれる。自分の声の芸ではなく、マイクの使い方という芸なんです。

録音の無かった時分の落語家と違って今のわれわれは自分の声を聴けるどころか姿まで見られる。それでもやっぱり芸の三要素「一声、二節、三演技」は永遠に変わらないと思うし、良い声の基準も変わりゃしない。とにかく自分の声を大切にしてこれからも高座に出続けます。



PROFILE 富山県射水市生まれ。 明治大学在学中は落語研究会に所属。卒業後、劇団、広告代理店勤務を経て、1984年に立川談志に入門。90年立川流真打に昇進。人気、実力共に落語界のけん引役。毎年渋谷パルコ劇場での1ヶ月公演や全国各地での定期公演をはじめ大小さまざまな落語会を多数開催。「ためしてガッテン」(NHK総合テレビ)をはじめパーソナリティーとしても活躍中。

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