PLAZA INTERVIEW

vol.033「ミュージックシーンに新感覚を送る」

一度聞いたら忘れない不思議なグループ名。その感性の神髄は、文学性の高い歌詞や郷愁感あふれるフォーキーなメロディ、クラブミュージック、ロックなど様々な音楽要素を混在させた独自のスタイルにある。2005年に札幌で結成され、現在のメンバーになってからわずか1年あまりでメジャーデビューしたサカナクション。しかし、2010年リリースのMaxi Single『アルクアラウンド』のセールスチャート上位ランクでメジャーグラウンドにおける認知を確立させると、続く4th Album『kikUUiki』では楽曲だけでなく、グラフィックやミュージックビデオでも時代に先駆けるアイデンティティが話題となった。今回は、そのサカナクションのギターとボーカルを受け持ち、ほとんどの曲の作詞、作曲を担当している山口一郎さんに、独特の音楽観や文学的な歌詞を生み出す感覚の源泉を探るべく、松武秀樹CPRA広報委員会委員長がじっくりと迫った。
(2011年07月15日公開)

Profile

ロック・バンド サカナクション 山口一郎さん
2005年に札幌で結成される。後に新メンバーが加わり、男女5人のバンドとして2007年にAlbum『GO TO THE FUTURE』でメジャーデビュー。2010年リリースのシングル『アルクアラウンド』、Album『kikUUiki』は、どちらもオリコンチャートで初登場3位を記録。10月の武道館公演『SAKANAQUARIUM21.1(B)』は、ロックの枠に収まらないエンターテインメント性豊かなshowとして成功を納めた。2011年7月20日、5th Album『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』をリリース。

メジャーデビューで得たものとは

033_pho01.jpg ―― バンド結成の経緯はどのように?
高校のときからやっていたバンドのメンバーと結成したんです。最初は、僕がDJをしてギターの岩寺がアドリブで合わせていくみたいな形でやっていたので、ライブハウスよりクラブで活動することのほうが多くて。でも、クラブで感じられる高揚感をライブハウスに持ち込むにはバンドだと思ってつくったのが、サカナクションのもとです。

―― ユニークなバンド名ですが、何か由来は?
僕は釣りが大好きなので、「サカナ」っていう日本語をクールに使えないかと思って、「サカナ」と「アクション」を足して「サカナクション」という造語にしたんです(笑)。

―― 現在のメンバーになって、メジャーデビューまで1年あまりだったと思いますが、メジャーデビューへの思いはどうでしたか?
メジャーデビューすることで何を得られるかって考えたとき、シーンに対してアプローチする挑戦権のようなものを得られるんじゃないかなと思ったんです。自分のやりたいことを表現するうえではインディーズのほうが良かったのかもしれないけど、自分の好きな日本の音楽シーンがどういうものか、実際にメジャーデビューしてみないと見えてこないと思ったんです。だから、メジャーデビューしたいという気持ちは、有名になりたいとかっていうことより、その世界を知りたいという気持ちのほうが強かったです。

―― スタジオで曲をつくるとき、何かコンセプトを決めてつくったりしますか。
前回のAlbumは『kikUUiki』というタイトルだったんですけど、混ざり合わないものが混ざり合ったときに生まれる、良い違和感をテーマに作品をつくろうと考えたものです。ライブの演出も、そういうのをテーマでやっていこうと決めていました。

―― ライブとレコーディングでは、どちらが好きですか。
サカナクションを結成した当初は、実はレコーディングのほうが好きだったんです。ライブでお客さんとつながること、その意味合いみたいなものを深く理解できていなかったんです。でも、作品をつくっていくうちに、ライブでどう表現したいのかと考えながら曲をつくるようになっていきました。ライブって、スタッフも含めたチーム感がすごく強いですよね。レコーディングはちょっと違って、「奇跡を待つ」というか、みんなが予想もしなかった良さみたいなものを生み出すために、どうメンタルを持っていくかということが強く働きますね。

影響を受けた意外なアーティスト

033_pho02.jpg ―― 山口さんは、ドイツのエレクトリック・ミュージック「クラフトワーク」とか、YMOなどの影響を受けたと言われていますが。
僕の心の中にあるのは、文学なんです。本を読んでいてきれいな言葉だったり、自分が感動する一文だったり。それがこんなにきれいなのに、何でマイノリティなんだろうっていうところから、音楽に入っていったんです。それを伝えるために音楽を利用したというか。なので、僕はフォークソングなんです。

―― え、そうですか。
昔、ライブを初めて観たのが、フォークソングの友部正人さんだったんです。僕もこういうふうに歌えるようになりたい、こうやって言葉を伝えたいというところから音楽に入ったので、僕の始まりはフォークソングなんです。

―― それは意外ですね。
その過程で、クラフトワークやYMOや、ビートルズやサイモン&ガーファンクルなどに出会った。要するに、僕の親父が聴いてきたような音楽を、小っちゃいころから繰り返し聴かされていたので、自分のなかで混ざってしまった。クラシックも含めて、違和感なく聴けるんです。雑食というか、すべてから吸収しているっていう感じがあります。

033_pho04.jpg ―― YMOと共演をされましたよね。本家の前で「ライディーン」を演奏された気持ちは?
僕は、有名な方などと共演するときに心がけているのは、「もう二度と会うことがなくなってもいいぐらい無茶しよう」ということなんです。そう考えることで自分に踏ん切りがつくし。YMOさんとステージで一緒になったときもそうでした。YMOをリスペクトして集まっているお客さんの前で自分たちが演奏するのも、すごく勇気のいることですし。その中で、何とか自分たちを覚えてもらおうというような気持ちが強かったです。

リスナーを信頼して音楽を届けたい

033_pho03.jpg ―― いま、音楽が配信など新しいメディアに移りつつあります。反面、違法にアップロードされてしまうという弊害も起きています。今後、実演家、とくにミュージシャンやアーティストにとって、どのようになるのが理想的だと思いますか。
YouTubeなどでアップロードされた動画の音をMP3に変換して、もうその曲を手に入れた気持ちになっている人たちがいるという現象は、避けられないと僕は思うんです。僕らも、そういうものをプロモーションとして利用しているわけですし。ただ一つ、絶対に失っちゃいけないと思うのは、リスナーを信頼することではないでしょうか。リスナーを信頼せずに、それを食い止める策ばかりを講じていくと、僕は逆効果だと思っているんです。そういう行為がどうしていけないことなのかとか、違法なものをダウンロードすると自分たちにどう返ってくるのかということを、教育やいろんなメディアなどを通じて、みんなに知ってもらわなければならないと思います。
音楽という文化は「娯楽」だから、そこで歯止めをかけるのはすごく難しいけれど、ミュージシャンとか、音楽で生活している人たちが、もっと発言すべきだと思うんです。

―― 本当にそうですね。
それと、若いミュージシャンのなかには、メジャーデビューすることだけで、その先のことをあまり意識していない人たちが多いですよね。そういう人たちにも、こういう問題をちゃんと説明する機会があったほうがいいと思います。そういうところから、ミュージシャンはもっと発信するようになり、リスナーにもモラルが生まれてくると思うんです。

033_pho05.jpg ―― ありがとうございます。7月に出る新譜の聴きどころをお願いします。
今回の『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』っていう曲は、ふだんあまり音楽を積極的に聴かないような若者たちにも、「いいな」と思ってもらえるものをつくりたいと考えてつくった曲です。少女時代さんやKARAさんなどのアイドルグループを主に好きな人たちにも応援したいと思ってもらえるような。そういうポジションを目指していきたいと思ったし、そこからいろいろ見えてくるものもあるだろうなとか。そこを意識してつくった曲なので、きっと楽しんでいただけると思うんです。

―― それは楽しみにしたいと思います。最後に、今年後半以降のご予定を。
いまちょうどAlbum制作中で、夏フェスに何本か出演させていただくことになっています。10月1日から11月6日まで全国ツアーをやって、来年の1、2月ぐらいには、ニュージーランドで釣りをしたいなと思っています(笑)。

―― いいですねえ。健康にご留意されて、がんばってください。ありがとうございました。

033_pho06.jpg 2011年7月20日リリース
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
【初回限定盤】VICL-36645 / 【通常盤】VICL-36646 ¥1,200(tax in)
初回限定盤:
・CD-EXTRA仕様:『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』Lylic-motion
・10月1日からの全国ツアーチケット先行抽選予約シリアルナンバー封入
オフィシャルHP
1. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
2. years
3. ライトダンス YSST Remix 2011 (remixed by Yoshinori Sunahara)

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