PLAZA INTERVIEW

vol.005「デジタル時代の音楽は、ロボットが創るのか?」

プラザ・インタビュー特別対談「松武秀樹のほろ酔いラディカル・トーク」をお届けします。タイトルの通り、JSPA日本シンセサイザー・プログラマー協会会長であり、CPRA運営委員である松武秀樹が亭主となり、酒亭にゲストを迎えて、音楽のこと、それから音楽のこと、さらに音楽のこと、たまに権利のこと、興が乗れば酒のことを話し尽くそうという主旨のもと企画されました。しかし、第一回目は、根が気真面目な亭主のこと、中味はやはり音楽シーンのために我々は何ができるか、どうしたらいいのかという内容に傾きつつある雰囲気...。では、第一回目のゲスト、津田大介氏との対話の始まりです。
(2006年08月23日公開)

Profile

IT・音楽ジャーナリスト
津田 大介さん
IT・音楽ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。週刊誌、インターネット誌、ビジネス誌、音楽誌などを中心に幅広いジャンルで執筆している。『だれが「音楽」を殺すのか?』、『仕事で差がつくすごいグーグル術』、『デジタル音楽の行方』(解説)等、IT、デジタルネットワーク、音楽産業などの著書多数。文化庁・私的録音録画小委員会委員。音楽配信を中心としたデジタルコンテンツ流通、著作権問題などの関連ニュースを集めた情報サイト「音楽配信メモ」も運営。

まずは。自己紹介から?

松武
きょうは、よろしくおねがいします。 芸団協・CPRAの運営委員として、また日本シンセサイザー・プログラマー協会会長としてだけでなく、ひとりのミュージシャンとして、デジタルメディアについて、あるいはデジタル時代の音楽について、著作も多数お書きになっている津田さんにご無理を言ってお時間をいただきました。
後半はお酒でも呑みながら、デジタル時代の音楽、ひいてはデジタル時代のアーティストの向かうべき方向性について、硬軟まじえながらお話しできればと思っています。
津田さんには、デジタル時代のユーザビリティと音楽、アーティストの有りようについて、アドバイスやお感じになるところをお聞きできたらと思っております。

005_pho01.jpg津田
よろしくお願いします。 僕も、YMO世代ですので、きょうは非常に楽しみにしてきました。第一線のアーティストのお考えになっていることを紙面には載らないのかもしれませんが、インタビューできたらと思います。

松武
僕はプログラマーという職業なんですけど、はじめたばかりの頃、プログラマーって演奏家なんだろうか?スタジオ・ミュージシャンなんだろうか?なんなのだろうか?音楽を創っているということは間違いないんですけれども、実演家の定義ということもあるんですけど、悩みまして、弁護士さんとか相談に行ったこともあるわけです。そうしたら、いわく「世の中の役に立つことをしなきゃダメだ」と、これまた抽象的なアドバイスをもらいまして。(笑)
まあ、そうこうしているうちに、昭和56年頃に貸レコードの分配が始まることになりまして、その当時は著作権はわかっているけれども、正直な話、著作隣接権はなんとなく聞いたことがあるという程度のものでした。具体的にどんな権利があるのかということは、ほとんど分からなかったわけです。
津田
なるほど。その当時は、プログラマーの人数も少なかったでしょうしね。

松武
そうなんです。それであるとき、スタジオ・ミュージシャンのなかでも比較的よく勉強している人間がおりまして、これは組織を作って、芸団協という団体があるらしいから、そこに加盟した方が良いようだということになったわけです。
津田さんとは初めてお会いするので、とりあえず私の歴史というか、立ち位置を説明させていただいているわけですが、しばらくご存知のことばかり話させていただくかと思いますがご容赦ください。
津田
いえいえ。お願いします。

松武
それで権利関係のこととか、みんなで勉強しまして組織を作ったわけです。とはいえ、ミュージシャンといっても、クラシックやら、ジャズやら、われわれのようなシンセサイザー・プログラマーもいるわけです。この当時は、実際に楽器を演奏する演奏家はともかく、プログラマーに関しては、いったいどこから、どういったものがプログラミングとして権利対象になるのかということすら明確ではなかったという時代でした。ですから、楽器演奏のスタジオミュージシャンは、プログラマーよりも2年くらい先に団体ができました。
それで、プログラマーの定義というものもできてきたわけです。
津田
なるほど

松武
ええ、ただ楽器をスタジオに運んでいって、ボタンを押すだけでは、それは違うぞということでした。無から有を生む作業にどれだけ関与しているのかということですよね。
津田
そうですよね。ただ、スタジオ入りの前の、その仕込みの時間ということもあるでしょうしね。

松武
そうなんです。まず第一に「音色」については、新しい音を創ったらそれは著作権じゃないかということになったんですが、でもそれってどうやって登録するんだろうかということから始まったわけなんですよね。(笑)
で、まあそんなことをワイワイやっているうちに、音楽シーンも打ち込み全盛時代になって、そういう音色を創る技術のある人間がいないとできないという時代になって、プログラマー自体の地位も技術も認められるようになったという感じなんですね。
いまは、MPN(演奏家権利処理合同機)の中に、JSPAを含め8つの団体があるわけですけど、MPNができるまではカンカンガクガク、ほんとうに大変なことがありました。
津田
なるほど、税金のこととか、分配のこととかですよね。

松武
そうなんです。本当に、一介のミュージシャンにとっては、難しいことばっかりなわけですよ。(笑)音楽産業自体も、他の産業と比べるとまだ若い産業なわけですしね。

デジタルの衝撃?

松武
一方でさらに、メディアも多様化、デジタル化してきた現在、音楽シーンもほんとうに衝撃を受けている時代だと思うんです。僕の場合、昔から、シンセサイザー、コンピュータをやってきたという自負があるんですけれども、ちょうど2005年が境というか、分かれ目になるだろうなとずっと考えていました。
津田
そうですね。確かに、「iTunes Music Store」とか始まって、ちょうど去年辺りが境目ですよね。人々が音楽とデジタルのつながり、関係性を意識するようになったのは。その意味で今は問題提起をするのには良いタイミングだと思います。

005_pho02.jpg 松武
そうなんです。ほんとうはミュージシャンらしくかどうかわかりませんけど、取っ払いのギャラを貰ってその日暮らしっていうのにも惹かれるんですけど、そうも言ってられないじゃないですか。(笑)
音楽の産業構造自体も複雑になっているわけで、権利権利って言うわけじゃないけど、誰かがやらなければならない問題なわけですよね。
津田
またあれですよね。「音楽をクリエイトする」という作業と「権利を守る」という作業は、ミュージシャンの人にとってまったく違うベクトルじゃないですか?

松武
違いますねぇ。いまの時代だけじゃないのかもしれませんが、アーティストやミュージシャンになって成功しよう、そうでなくても一生音楽だけで食べていこうというのは、よっぽどチャンスに恵まれたり何かがないかぎり、昔より難しくなっているんじゃないかと思うんですよね。
005_pho03.jpg津田
「音楽で食う」っていう単語ひとつとっても、多分、スキームがぜんぜん変わっているんですよ。僕は、IT、デジタル時代には「音楽をどのようにリスナーに届けていくか」という点について、もっと自覚的になった方が良いと思っていますし、そのようにアーティストの意識も変わるべきだと思うんですが、一方で、アーティストや音楽を創る人たちには音楽を創ることだけ考えて貰いたいなという気持ちも、個人的にはあるんですね。音楽を創る人たちって、やっぱり音楽に関しては純粋な人たちが多いじゃないですか。
「音楽以外はよく分からないよ」というアーティストがいた場合、昔からそうなのかもしれませんが、やはりそのアーティストが信頼を寄せられるマネージメントの担当者が権利関係もきちんと処理して、エージェント的なことも任せるということが、産業構造が複雑になればなるほどさらに重要になるんじゃないでしょうか。もちろん、すでにやってらっしゃるアーティストやマネージャーもいらっしゃると承知していますが、今後は処理しなければならない案件も増えていくわけですから、ますます大変になると思いますよね。権利処理ということでは、演奏家もさらに煩雑な作業が増えるわけで、そういった契約上のシステム作りなんかが、ますます必要になってくる。その上で、アーティスト、演奏家は、いまより少し意識向上して行くでしょう。その上で良い音楽を創ってもらうというのが、音楽ファンとしては理想的だと思うんですよね。

松武
ですね。ということは、契約システムと権利関係と、両方の仕組みを知らないといけないということですよね。
津田
とはいえ、アマチュアのアーティストはデビューできるという時には、「わーいうれしい」という気持ちだけで一杯ですよね。(笑)
そんなときに、契約内容は?権利関係は?って、考えたり言えたりする新人なんていませんよね?ただ、気がついたら内容がよくわからないままサインさせられて、数年後気がついたら契約でがんじがらめになっていたなんていうケースが80年代から90年代にあったなんてウワサも聞くわけです。そんな話聞くと音楽 ファンとしては、正直、興ざめですよね。だったら、CPRAみたいな実演家の団体が主体となって、契約時にアドバイスしてあげられるような、プロ野球の代理人じゃないですけど、そんなシステムもあって良いのかなと思います。
これは、僕たちの雑誌や書籍の出版業界もそうで、原稿依頼や出版の時にいちいち契約書を交わしたりしないわけで、信頼関係でやっている部分が大きいので、 あまりヒトのことは言えないんですけど。(笑)
でも、もう少しだけ、近代化しても良いんじゃないかなとは思いますよね。

音楽を!もっと音楽を!そして酒を!

松武
権利権利というと、なんだお前はお金が欲しいのかという風に思われがちなんですけど、そうじゃないんですよね。まず音楽なんですよ。これ、音楽家としてはユーザーというか、リスナーというか、世間の人に分かって欲しいところなんです。もちろんお金は必要ですし、大事なものですけど、1にお金、2にお金というものではない。それなら投資家にはかないませんよね。アーティストやミュージシャンて、基本的にとにかく音楽を創っていきたいという人種なんだと思うんです。そういう音楽を創る人間を増やしたい。環境を守りたい。そのためのお金ならいくらでも欲しい。これ、わかってもらえるかなぁ。(笑)
津田
これはメディアの伝え方もあると思うんですけど、どうしても一般消費者や音楽ファンにとっては、なんだやっぱりカネが欲しいのか?という感じに映りがちなケースもあると思うんですが、そこは違うんだよという部分を、いま松武さんがおっしゃったように、きちんとアピールしていくべきだと思います。

松武
その点は、メディア戦略といいますか、音楽団体のPR戦略を、CPRAが中心となってやらなければならないと思いますね。
津田
ずっとインターネットを見てきて思うのは、いわゆる「ネット世論」と言われるなかには、やはり特殊なもの、ちょっと偏ったものという時代がありました。しかし、この数年はブログやブロードバンド環境の整備で、かなり一般の人も流れ込んできたなというのが実感なんですね。 ですから、最近は「ネット世論」についても、ある意味正論が通りやすい時代になってきているなと思います。これはとても良いことで、アーティストやミュージシャンの主張がよりダイレクトにユーザーや消費者に理解してもらえる時代になったんじゃないかと思うんですよね。 我々が守りたいのは、お金もだけど、それよりもプライドだし、誠意だし、というインフォメーションをすることによって、また新たなルール作りができるような雰囲気が生まれてくるんじゃないかなと思います。

松武
僕がずっと感じているのは、音楽を聴く人が増えなければ音楽を創る人も増えない、ということなんですね。 当たり前のことだし、うまく言葉にできない部分なんですけど、これはどういう時に感じるかというと、たとえば電車に乗っている時に近頃は両耳にイヤフォンをしている人が増えたなと感じるんですね。若い人はもちろん、年配のサラリーマンもそうなんです。おそらくiPodやデジタルミュージック・プレーヤー、あるいは携帯電話だと思うんですが、これって多分、電車のなかで通勤・通学途中に音楽を聴いている人が増えているんだと思うんですよね。 これがうれしいんですよね。デジタルミュージック・プレーヤーに関しては、私的録音補償金の課金指定機器問題があって、交渉している最中なんですが、しめしめお金が入ってくるわと思うわけじゃないんです。それより、音楽を聴いている人が増えているということのほうがもう何十倍もうれしいんですよ。
005_pho04.jpg 津田
ユーザー、音楽ファン、消費者としての立場からあえて言いますと、いろんなコンテンツのなかで、音楽ってあきらかに繰り返し聞かれるものだと思うんですね。友だちに頼まれれば、いいよって言って貸してあげて、あるいはコピーしてあげて、コピーしてもらって、そうやって広がっていくものだと思うんです。そして出会った音楽を気に入ったら、自分でCDを買ったり、ライブやコンサートに行たりということになるんだと思うんですよね。 いままでは、コピーといっても友だち同士の貸し借り程度だったから、まさに口コミで、大した被害額ではなかったわけですよね。それがインターネットになって、不特定多数にばらまかれて莫大な被害が出ていると言われているわけですよね。でも一方では、友だちレベルでないということは、莫大な数の人に広報・宣伝してもらっているという面もあると思います。ですから、そういうプロセスを経て音楽を知ってもらった人たちに対して、その後どうやってCDの購入やライブ、コンサートの動員につなげていくのかということのほうが重要なのではないかと思うんですよね。
今後の話しをすれば、もちろんCDの売上げは大事なんですけど、むしろライブの重要性が上がっていくのではないかと思います。音楽不況だといわれていますが、ライブ・ビジネスの総収入は増加しているという話も聞きますし、日本全国で行われているコンサートが村おこしになっているという話もありますよね。日本では、ライブはあんまり儲からないということになっているようですけど、ちゃんと儲かるように、収益構造を見直す必要もあるんじゃないでしょうか。

松武
アーティストがお客さんの目の前で育っていくという環境づくりということですね。いままでも、もちろんインディーズはそうでしたけど、メジャーになっても、そういう環境を今まで以上に整備するということですね。メジャーになっても、ライブハウスでやれと。しょっちゅうやれと。これは、メジャー・レーベルの戦略として考えて欲しいですね。音楽ファンとしては、まさに「正論」ですね。(笑)
津田
共通目的基金で、常設のライブハウスを作るとか。(笑)
無理ですか?

松武
処々、諸々、あるでしょうけど...(笑)。いいですね。
津田
音楽のために、人と、同時に場所も、育てて欲しいですよね。役所なんかも巻き込んで。運営も含めてCPRA主導で、どうでしょうか?
よくアーティスト、ミュージシャンをリスペクトするべきだという言い方がありますよね。それはもちろんそうで、僕はもちろんリスペクトしているつもりですが、「リスペクトしてくれ」ということをアーティスト側から言ってしまうとリスナーが白けてしまうという面もあると思うんです。ではどうしたらいいかというと、僕は、やはり彼らに実際に演奏したり、音楽を創ったりさせてみればいいと思うんです。ですから、音楽を聴く人を増やすと同時に、音楽をする人を増やす環境、育成環境をCPRAのような団体が中心になって、いま以上に整備して欲しいと思います。
またデジタルに関しては、デジタルならではの問題もありますが、デジタルだからこそ容易にできること、容易になる権利処理なんかもあると思っています。たとえば、ファイル交換ユーザーの問題の時にも、僕個人としては、賠償金まで取らなくても良かったんじゃないか。やっていることは確かに良いことではないし、違法だけれども、なんといっても潜在的なお客さんなんだから、警告程度でも良かったんじゃないかなとは思っていますね。

松武
ありがとうございました。
今回は、初めてお話しすると言うことで、当初の目論見よりかたい話になってしまいました。また、ほろ酔いというより、ほとんどしらふでしたけど、これは第一回目ということで、手探りでした。次はもっと砕けて、もっと突っ込んだ「カドの立つ話」をしてみたいと思います。
また、ぜひ、近々にお会いしたいですね。次は、最初から呑みながらやりますか?(笑)

取材協力 : 新橋『酒亭 菊姫』

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