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数字で見るコロナ禍が音楽産業に与えた影響

法制広報部 榧野睦子

2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症拡大は、人々の生活様式に急激な変化をもたらし、様々な産業に大きな影響を与えている。
とりわけ音楽産業を含む文化芸術産業は、最も影響を受けたと言われる観光、飲食などの他業種と比べても変わらないほどの甚大な打撃を受けていると広く報道されている。様々な報告書から、その打撃の大きさが見えてきた。

音楽市場への影響

 コロナ禍でライブ・エンタテインメント市場は世界的に大きな打撃を受けている。
日本では、2020年2月末に政府による文化イベント自粛要請以降、公演が度々中止や延期を余儀なくされた。たとえ開催できたとしても、収容人数や収容率が制限される状況が長く続いている。
ぴあ総研株式会社の調査によれば、2020年度の市場規模は2019年度に比べ8割減少しており、コロナ禍前の水準に回復するのは、最短でも2023年の見通しだという ※1

 一方、定額制音楽配信サービスは、2016年にダウンロード課金型と売上高が逆転し、その後も順調に市場規模を拡大してきたが、2020年は外出自粛による巣ごもり効果もあってか、さらに大きな成長を遂げている。

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 2021年4月に日本レコード協会が公表した『音楽メディアユーザー実態調査』報告書からも、コロナ禍で音楽利用実態が大きく変化したことが伺える。
カラオケ(39%)及びコンサート、ライブ等の入場料(35%)への支出が減った一方で、有料配信型ライブ(10.5%)及び定額制音楽配信サービス(6.0%)への支出は増えている。無料の「YouTube」を音楽聴取に利用する人が最も高い(58%)こともあり、全体で見ると、音楽への支出総額は40%近く減少している ※2

レコード産業及び集中管理団体への影響

 IFPI(国際レコード産業連盟)の"IFPI Global Music Report 2021" ※3 によれば、2020年のレコード産業の全世界売上は前年比7.4%増の216億ドルで、6年連続のプラス成長となった。
CDなどの「フィジカル」や、「ダウンロード、その他デジタル」の売り上げが減少し、定額音楽配信サービスなどの「ストリーミング」の売上が増加する傾向は変わらず、2020年は「ストリーミング」が売り上げ全体の6割以上を占めるようになった。
ただし、コロナ禍の影響で、映画、テレビCM、ゲームなどの映像に伴う利用に係るシンクロ権や、放送、店舗等でのBGM利用に係る演奏権からの収益は減少している。

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 次に作詞家・作曲家の集中管理団体への影響を見てみよう。
音楽、映像、演劇、文芸及び視覚芸術に係る著作権管理団体により構成される著作権協会国際連合(CISAC)※4 が2021年10月に公表した"CISAC Global Collection Report 2021" ※5 によれば、2020年CISAC会員団体徴収総額は前年に比べ9.9%(10億ユーロ超)減少した。
このうち音楽に係る徴収額は10.7%(約81.9億ユーロ)減少している。

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 特にライブ・BGMに係る徴収額が-45.2%(約12億ユーロ)と大幅に減少している。
そのうち、ライブに係る徴収額の減少が60%、BGMに係る徴収額の減少が40%と推定されている。ライブ・エンタテインメントに係る使用料徴収だけでなく、飲食店等の休業により、BGM使用料徴収にも大きな影響が出たことが分かる。オンラインライブについて使用料徴収を始めた団体もあるが、非常に少額でありライブに係る徴収額の激減を補てんするにはほど遠い。今後、ライブハウスや飲食店の倒産も予測され、この部門の徴収額の回復にはまだ時間がかかると思われる。
テレビ・ラジオに係る使用料は、通常、テレビ・ラジオ局の広告費収入に一定の料率をかけて算出する。2020年におけるテレビ局の広告費収入は全世界で5%減と、当初の想定ほどは減少しなかった。その結果、この部門の徴収額は4.4%減に抑えられた。

その一方で好調なのが、動画配信及び音楽配信サービス利用者が急増したデジタルに係る徴収で、その額はライブ・BGMに係る徴収額を超え、2番目に多い徴収源に浮上した。
ただし、多くの地域では使用料が低い料率または固定額となっているため、他部門での徴収額の減少を補うまでには至っていない。

 
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 この傾向は、実演家の集中管理団体についても同様である。
実演家権利管理団体協議会(SCAPR)※6 の"Executive Report 2021"によれば、2020年の会員団体徴収総額は前年度に比べ8.4%(7170万ユーロ)減少した。ほとんどの部門がマイナスとなっているが、飲食店等でのBGM使用、すなわちレコード演奏・伝達に係る徴収額が最も大きく減少している。
なお、実演家権利管理団体は音楽配信に係る権利の管理はしていないため、音楽配信サービスのプラスの影響は受けていない

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ライブからデジタルへ

 新型コロナウイルス感染症の拡大は社会全体に急速かつ強制的なデジタル化をもたらしたが、音楽産業も例外ではない。
リアルで開催できなくなったライブのオンライン配信は、徐々に有料型オンラインライブへと発展し、その日本国内市場は、推計448億円(2020年)にまで急拡大した ※7
しかし、チケット代はリアルでのライブの1/2から1/3が相場になっていることに加え、集客も1/3から1/4で、配信回数が増えるにつれ、チケットの販売数は落ちる傾向にあるという ※8
オンラインライブは、地理的・時間的制約を軽減させ、子育て世代や居住地にとらわれない集客など、客層に広がりをもたらしただけでなく、バーチャルなど現実には難しい演出等を行うこともできる。
とはいえ、現時点ではライブ・エンタテインメント市場で失われた収益を補てんするほどの規模にまでは成長していない

一方、好調の音楽配信サービスについても、その恩恵を受ける作詞家・作曲家及び実演家はほんの一握りである ※9 上に、使用料が分配される作品の多くは英米の楽曲で、それ以外の国の楽曲が少ないため、せっかく集中管理団体の徴収額が増えても国内の権利者にはあまり還元されないという指摘もある ※10
コロナ禍で思うような公演活動ができない中、とりわけライブを中心に活動している実演家にとって、音楽配信サービスからの使用料はますます重要なものとなってきている。

それに伴い、音楽配信サービスの収益の分配構造等について見直しを求める声が、世界的に大きくなってきている ※11
イギリスでは、作詞家・作曲家及び実演家が、音楽配信市場の規制や改革を求める #Broken Record キャンペーンや Keep Music Alive キャンペーンを行い、議会や政府に働きかけた。
その結果、下院特別委員会より政府の積極的な介入を求める報告書が出され、今後、政府は関係者会議の開催や調査研究等を通じて法改正の必要性等について判断がなされることとなっている ※12


ぴあ総研株式会社の将来予測、CISAC報告書いずれにおいても、2019年の状況まで回復するのは早くとも2023年とされている。
音楽文化が途絶えないように、業界内部の努力はもとより、様々な支援や改革が求められる。





【注記】

※1  「ライブ・エンタテインメント市場がコロナ前の水準に回復するのは、最短で2023年/ぴあ総研が将来推計値を公表」(ぴあ株式会社,2021年9月27日)
   https://corporate.pia.jp/news/detail_live_enta20210928.html (参照2021年11月1日)
   ただし、2022年3月までにイベント開催制限が完全に撤廃され、J-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)やARTS for the future!(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)のような政府の支援が2025年まで継続することを前提としている。 (▲戻る)

※2  「2020年度調査結果」(日本レコード協会,2021年4月公開)
   https://www.riaj.or.jp/f/pdf/report/mediauser/softuser2020.pdf (参照2021年11月1日)。 (▲戻る)

※3  https://www.ifpi.org/resources/ より入手可能(2021年11月1日現在)。 (▲戻る)

※4  2021年10月現在、120カ国228団体加盟。うち、日本の加盟団体は、JASRAC(日本音楽著作権協会)、APG(日本美術著作権機構)、JASPAR(日本美術著作権協会)。 (▲戻る)

※5   https://www.cisac.org/services/reports-and-research より入手可能(2021年11月1日現在)。 (▲戻る)

※6  2021年10月現在、42カ国57団体加盟。うち、日本の加盟団体は、芸団協CPRA。 (▲戻る)

※7  「2020年の有料型オンラインライブ市場は448億円に急成長。~ポスト・コロナ時代は、ライブ・エンタテインメントへの参加スタイルも多様化へ /ぴあ総研が調査結果を公表」( ぴあ株式会社,2021年2月12日)
   https://corporate.pia.jp/news/detail_live_enta_20210212.html(参照2021年11月1日) (▲戻る)

※8  「インタビュー2:動画配信が掘り起こす顧客と新たなサービス」(一般社団法人デジタルコンテンツ協会『デジタルコンテンツ白書2021』2021年、14~16ページ゙) (▲戻る)

※9  たとえば音楽配信サービス大手Spotifyは300万人以上のアーティストの楽曲を配信しているとみられるが、その全再生楽曲数の上位90%がわずか4万3千人のアーティストの楽曲で占められているという。
   「Tim Ingham "Spotifyで生計立てるのは『夢のまた夢』データから見える収入格差の実態)(Rolling Stone日本語版)
   https://rollingstonejapan.com/articles/detail/34453/1/1/1(参照2021年11月1日) (▲戻る)

※10  音楽配信サービスでの再生回数に大きく影響するプレイリスト(例えばSpotifyの再生回数の約1/3がSpotify作成プレイリストからの再生回数、約1/3が利用者作成プレイリストからの再生回数であるという)に載る楽曲に偏りがあること(Franco Mariuzzo and Peter L Ormosi(2020)Independent v Major Record Labels: Do they compete on a level-playing Streaming Field? )や、主な音楽配信事業者が使用料の支払いに「比例按分方式(Pro Rata Model。当該アーティストに分配される一月の使用料=原資×一月の当該アーティスト楽曲の総再生回数/一月の当該サービス。この方式だと、人気のあるアーティストに使用料の分配が集中するという批判がある)」を適用していることで、このような傾向が顕著になっているとの指摘がある(Chiristian L. Castle and Prof. Feijóo Claudio (2021) Study on the Artists in the Digital Music Marketplace: Economic and Regal Considerations (第41回WIPO著作権等常設委員会 資料))。 (▲戻る)

※11  たとえばフランスでは2020年9月、15,000人超のアーティストがストリーミングサービスからの衡平な報酬を文化大臣に対し求めている。また、アメリカではアーティストへの報酬の改善を求める"Justice at Spotify"キャンペーン(https://www.unionofmusicians.org/justice-at-spotify)が開始された。 (▲戻る)

※12  これまでの議会や政府の検討状況はイギリス議会ウェブサイト(https://committees.parliament.uk/work/646/economics-of-music-streaming/)参照のこと。 (▲戻る)