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インターネット上の海賊版対策をめぐる動向について ―リーチサイトやサイトブロッキングを中心に―

著作隣接権総合研究所 君塚陽介

インターネット上の海賊版対策をめぐり議論が進められている。近時、注目を集めたリーチサイトの規制やサイトブロッキングについて、これまでの議論を振り返ってみたい。

インターネット上の著作権等侵害対策の背景

インターネットでは、音楽や漫画、アニメ、映画、放送番組などの不正流通が後を絶たず、著作権者や実演家、レコード製作者、放送局など権利者に甚大な被害をもたらしている。現行著作権法では、権利者は、インターネットにおける著作物などコンテンツの利用について、複製権や公衆送信権、送信可能化権といった権利が認められている。したがって、これらの権利に基づいて、インターネットにおける海賊版コンテンツなどを差し止めたり、損害賠償を求めたり、場合によっては、刑事罰などの救済を求めることができる。

しかしながら、インターネットにおいては、そもそも誰が著作権等の侵害を行っているのか、侵害を行っている者が何処にいるのか特定することが困難な場合も少なくない。そこで、著作権等の権利侵害を助長したり、関与したりする者などを規制することによって、インターネット上の海賊版対策を講じる方策が検討されている。

近時では、著作権等を侵害するコンテンツを掲載する海賊版サイトへのリンクを提供する行為、いわゆる「リーチサイト(leech site)※1の規制」や、海賊版サイトへの接続遮断、いわゆる「サイトブロッキング」について議論が進められた。

リーチサイトの規制をめぐる検討経緯

2016年5月9日に決定された『知的財産推進計画2016』では、ユーザーを侵害コンテンツに誘導するためのリンクを集めて掲載するリーチサイトが、現行著作権法上、侵害行為に該当するかどうかが明らかではなく、リーチサイト運営者に対して削除要請を行っても対応がなされないなど対応が難しく、しかも、リーチサイトが海外のサーバーに置かれている場合も多いため対応を一層困難にしているとの問題意識のもと、「リーチサイトを通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応に関して、権利保護と表現の自由のバランスに留意しつつ、対応すべき行為の範囲等、法制面での対応を含め具体的な検討を進める」とした。

これを受けて、2016年度から2018年度にかけて著作権分科会の法制・基本問題小委員会で議論が進められた。
小委員会では、漫画やアニメ、音楽、放送、ゲームなどの権利者団体のほか、ヤフーやグーグルなどプラットフォーマーに対してもヒアリングが行われた。
さらに、リンク情報の提供行為はインターネットによる情報伝達(表現行為)において不可欠な役割を担い、表現の自由の制約にも関わることから、リンク情報の提供行為やリーチサイトの運営行為を規制するにあたって憲法的観点から考慮すべき事項についてヒアリングも行われ、著作権者の利益の保護と表現の自由とのバランスについて留意することが確認された。このようなヒアリングを踏まえつつ、緊急に対応する必要性が高い悪質な行為類型を整理しながら具体的な対応策について検討が進められた。

2018年12月7日開催の法制・基本問題小委員会では、リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応を含む中間まとめが行われた。今後、小委員会での最終的な議論が取りまとめられれば、著作権分科会に報告のうえ、早ければ、2019年の通常国会にリーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為を規制する著作権法改正法案が提出される見込みだ。

サイトブロッキングをめぐる検討経緯

サイトブロッキングとは、インターネットユーザーが、海賊版サイトなど一定のウェブサイトにアクセスしようとする場合に、アクセスを遮断するものだ。イギリスやフランス、オーストラリアでは、著作権を侵害するサイトへのブロッキングを命じるよう裁判所に対して求める制度があり、実際に適用された事例もある。また、わが国でも、業界団体による自主的な取組として、児童ポルノ画像を掲載するサイトに対してサイトブロッキングが行われている。

インターネット上における海賊版対策として、とりわけサイトブロッキングに注目が集まったのは、大量の漫画や雑誌が違法にアップロードされていた「漫画村」などによる被害のため、政府が2018年4月13日に「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」(以下「緊急対策」)を打ち出したことによる。この「緊急対策」の中で、海賊版サイトへのサイトブロッキングを「法制度整備が行われるまでの_間の臨時的かつ緊急的な措置として、特に悪質な海賊版サイトのブロッキングについては、通信の秘密や表現の自由との関係でも、緊急避難の要件を満たす場合には、その侵害について違法性が阻却されるものと考えられる」として、あくまで民間事業者による自主的な取組として「漫画村」などのサイトに限定して、サイトブロッキングが適当であるとしたのだ。

そもそもサイトブロッキングには、通信事業者がインターネットのユーザーがどのようなサイトにアクセスしようとしていたのかをチェックする必要があるため、電気通信事業法4条1項が定める「通信の秘密」に違反し、憲法21条2項が定める「検閲」の禁止や「通信の秘密」を侵すおそれがある(図)。

CPRA-news91-05.png※2:2018年7月5日付 朝日新聞「教えて!サイト接続遮断[1]」掲載の図を基に作成

そこで「緊急対策」では、一定の要件の下、「急迫の危難を避けるためにやむを得ず他人の法益を害すること」という、刑法上の「緊急避難」という考え方を持ち出したのだ。
このような「緊急対策」を受けて、NTTグループ3社はサイトブロッキングの実施を発表したが※3、実施前に「漫画村」などのサイトが実質的に閉鎖状態にあったため、サイトブロッキングの実施までには至らなった※4

このような「緊急対策」の一方、政府はサイトブロッキングの法的根拠を明確にするために、知的財産戦略本部に「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」を設置し、検討を進めた。
この検討過程では、甚大な被害をもたらしている海賊版対策のためにはサイトブロッキング以外の方法はなく、導入が必要であるとする意見がある一方で、サイトブロッキングの導入は通信の秘密を侵し、著作権侵害だけでなく、名誉棄損やプライバシー侵害にもサイトブロッキングが導入されるおそれがあるとの意見などサイトブロッキングの導入に反対する意見もあった。

また、アメリカでの裁判を通じて、「漫画村」のサイト運営者とみられる者が特定され、直接訴えを提起することも可能になることからサイトブロッキングを導入するための前提条件に揺らぎも見られた。結局のところ、サイトブロッキングの導入に根強く反対する意見もあり、タスクフォースでは中間まとめすら行うことができず、無期限延期となってしまった。

効果的なインターネット上の海賊版対策はあるのか?

リーチサイトの規制については、著作権法改正が見込まれる一方、サイトブロッキングについては、先行きは不透明な状況だ。では、そもそも効果的なインターネット上の海賊版対策というものはあるのだろうか。
リーチサイトの規制やサイトブロッキング以外にも、例えば、インターネット上の海賊版対策となり得るものとしては、法制・基本問題小委員会で制度改正に向けた議論が進められている書籍や漫画など静止画像の違法ダウンロード化のほか、海賊版サイトへの広告出稿を禁止することも考えられるだろう。また、ユーザーが海賊版サイトを利用しなくなるように著作権意識の普及・啓発を図ることや、インターネットにおける正規流通を促進し、インターネットのユーザーが海賊版サイトを利用しなくとも、コンテンツを享受し易い環境を整備することも考えられるだろう。さらには、国境を簡単に越えることができるインターネット上の海賊版対策については国際的な協調も不可欠と言えるだろう。

とりわけ、インターネット上の海賊版対策は、リーチサイトの規制やサイトブロッキングをめぐる議論を見ても、「表現の自由」や「通信の秘密」との関係が問題になりがちだ。唯一効果的なインターネット上の海賊版対策というものはなく、様々な施策を総合的に考えていく必要があるだろう。



【本文中の注釈】

※1:leechとは、「寄生する」の意味(▲戻る)
※3:2018年4月23日付 日本電信電話株式会社ほかプレスリリース「インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について」(▲戻る)
※4:2018年8月4日付 河北新報ほか(▲戻る)