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立つ鳥跡を濁す

一般社団法人日本音楽事業者協会 前会長/株式会社ホリプロ 代表取締役社長  堀 義貴

 この6月の通常総会をもって(一社)日本音楽事業者協会(音事協)会長の職を任期8年満了により退任しました。併せて(一社)映像コンテンツ権利処理機構(aRma)理事長、実演家著作隣接権センター(CPRA)権利者団体会議議長の職も退任しました。
音事協の委員会活動に参加し始めて20 年余、法制委員会委員としてCPRAに、団体発足を機に理事としてaRmaに参加して10数年、ご指導いただいた皆様に感謝申し上げます。
「立つ鳥跡を濁さず」で去れば美しいのでしょうが、敢えてお世話になったこの期間について思うところを残しておきたいと思います。

 この四半世紀の日本を振り返って、音楽業界、映像業界などコンテンツ業界はインターネット革命に端を発したデジタル化の波の中を泳いできたと言えるでしょう。それ以前は、新しいデバイスや記録媒体が出現する度に、その波を的確に捉え、ビッグウェーブに乗ることで経済的にも発展してきました。
しかし、この四半世紀の波を我々業界は的確に捉えてきたでしょうか?その結果を突き付けられたのが今回のコロナ禍だったように思います。

 これまでアナログ作業でうまくやってきたことで、巷で言うDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が他の国々と比較して周回遅れであったことが露呈したのがこの1年半の教訓だったとしたならば、この先日本のエンタテインメント業界がこの教訓を生かしていかなければ、我々は経験したこの苦難を無駄にしてしまいます。

 例えば、ライブや演劇では今どきどこの国でも電子チケットが普及しているのに、日本では全く浸透していない。ダイナミックプライシングの是非に関する議論すら起こらない。アメリカはもちろん、アジア諸国でも音楽のサブスクリプション聴取がスタンダードとなり、音楽産業自体の収益を押し上げている中で、今なおCD中心の市場に縛られ、これまでで失った金額を嘆き続けている。
また、放送電波の普及を飛び越えてスマホによるネットでの映像コンテンツ視聴習慣が常態化している発展途上国もある中で、思うようにコンテンツが海外に普及しない。音楽、映像でアジアはおろか、ヨーロッパ、アメリカまで韓流のコンテンツに先を越されたままの現状等々...。
どれをとっても日本人の「日本は凄い」という過信に呪縛されていることが原因のように思えてなりません。コロナ禍で、アニメを除いて実演を伴うコンテンツで世界と戦えるものがほとんど何もなかったことは、実に口惜しく、これまでネットを有効に活用してこなかったことが明確になりました。

 コロナ禍はさらに別の側面もあぶり出しました。エンタテインメント業界に甚大な損害が生じていても、手を差し伸べるはずの国や役所が、我々業界のどこの誰に話を聞くべきか、窓口が一体どこなのかバラバラではっきりしなかったことや、話を聞いても感情論が先行して、具体的にどの分野がどれだけの金額の損害を受けているのかといった詳細なデータがほとんど無かったことなどで、政府からの支援計画の策定に遅れやズレが生じたことは否めません。

 他にも政治に対する「お上意識」やイデオロギーに縛られて援助を受けることに対する違和感を持つ人が多かったことも、機動的なロビー活動の妨げになったように思います。

 私が今回役職を辞するにあたり、CPRAを構成する4団体に加盟している団体、事業者、個人一人一人に意識して欲しいことは、CPRAのガバナンスや個々の団体間の問題を決して先送りせず、日々の時代に合わせた組織の改革、分配方法や約款の変更を続けていき、団体間で対立があったとしても非常時においては団結して巨大な塊として課題に立ち向かっていく「大きな力」になることだと思います。
これからの時代、我々事業者や団体だけが変革すればいいのではなく、アーティスト個人個人もこれまでの意識を変えていかなくてはなりません。特定の役員や事務局にいつまでも任せきりにせず、自ら参加する意思がなければ、権利者が有する様々な権利は、いずれ手のひらから砂が落ちるように無くなっていくでしょう。

 皆が自分の保有している権利や制度がどういうものなのかを学び、その行使に当たって利用者に安売りしたり、安易に譲り渡したりしないよう、主張すべきことは堂々と主張し、議論すべきことは議論し、たとえ対立したとしても粘り強く解を見つけていく。
そのためには現状維持で良しとするのではなく、必ず新しい答えを導き出す。そんな今日より明日はもっと豊かになると思えるよう、活動に邁進して欲しいと私は願っています。

 今後のCPRAの活動に期待すると同時に、益々の発展を心よりお祈りいたします。関係者の皆様方に置かれましては、これまで以上のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。

 CPRAの皆様、そしてCPRAを構成する権利者団体の皆様、事務局の皆様に最後、「後に続くものを信じて走れ!」という言葉を残して筆を置かせていただきます。長い間ありがとうございました。