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デジタル技術と著作権管理 ―パラダイムシフトは起こるのか―

芸団協CPRA 法制広報部

透明性が高く効率の良い著作権管理を目指して、(一社)日本音楽著作権協会(JASRAC)と(株)NexToneは、デジタル技術を活用した実証実験を行っている。そのねらいや課題、今後 集中管理団体に求められる役割について、水谷英彦氏(JASRAC企画部情報総合課長)と、猪熊宏志氏((株)NexToneシステムズ代表取締役社長)にそれぞれ話を伺った。

ブロックチェーンで透明性を高める

 ブロックチェーンとは、「ブロック」と呼ばれる記録の塊を連鎖させてデータを保管するデータベースである。P2Pネットワークを構成する複数のコンピュータが同じブロックチェーンのコピーを持ち、その内容の正確性を確認する。暗号技術を活用することで、透明性が高く改ざんされにくい環境でデータを流通させることができる。

 JASRACでは透明性確保と経費削減のためデジタルトランスフォーメーションに取り組んでおり、その一環としてブロックチェーンを用いた実証実験を行っている。2018年度は使用料の徴収から分配までの履歴をブロックチェーン上に蓄積できないか検証に取り組んだ。
 「ブロックチェーンを使うメリットは秘匿性を保ちながら情報共有できるところ。使用料を楽曲の権利者ごとに分配する流れを可視化することができるため、分配の透明性を向上させることができるのではないか、と考えました」(水谷さん)。

 翌年10月には音楽作品情報データの信頼性を高める目的で、音源データのハッシュ値 ※1 、持ち主のID及び時刻証明情報をセットにして記録できるブロックチェーン基盤とWEBアプリケーションを開発。2020年2月より複数の音楽出版社の協力を得て実証実験を行った。
 「創作時に登録すれば、その時点で音源ファイルが存在し、かつ登録者がそのファイルを所有していたことが証明できます。匿名性の高いデジタルでの音楽流通が主流となってきた今日、このような仕組みが浸透すれば、プロの世界での相互監視に変わる権利侵害の抑止効果が期待できるかもしれません」。

楽曲照合アルゴリズムで利用楽曲把握の精度向上と業務の効率化

 (株)NexToneでは、参入を計画している演奏権の管理に技術の活用を考えている。
「莫大な量の楽曲報告データを処理していくために、使用楽曲をいかに効率的に特定するか。その解決方法の一つとして、エイベックス・テクノロジーズ(株)及びVobile Japan(株)と協力して実証実験を開始しました」(猪熊さん)。

 ライブ会場等に配布・設置した装置で録音した演奏の特徴データと、別途ブロックチェーン上に保有している音源の特徴データを独自のアルゴリズムで照合し、その結果をもとに使用料を請求するモデルを構築する(図1)。音源を活用した楽曲照合手法ではフィンガープリント技術が有名だが、
「演奏クオリティのばらつきや音楽ジャンルの違い、会話などのノイズ等、ライブ演奏データの照合は難易度が高い。一般的なフィンガープリント技術は、即時性は高いのですが演奏データの照合となると実用的なレベルには至っていない。そのため我々は独自アルゴリズムの開発とAIによる学習の二つの観点から研究開発を行っています。最新の評価結果においては、関連学会で最高点を獲得した方式と比較しても、かなり良い照合結果が出せるようになっています。
 今後はこれら三つの長所を統合して照合精度がさらに高いアルゴリズムの開発を目指します。並行してフィールドテストを重ねながら利用者との協力体制モデルも検討していき、新たな演奏権管理の形を提案していきたいと思っています」。

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これからの集中管理団体の役割とは

 これらの技術を使えば、集中管理団体を介さずに、クリエイターとユーザーが直接やり取りする仕組みができるの だろうか。例えば、楽曲ファイルのハッシュ値と使用料、権利者間の使用料分配比率を含むメタデータをブロックチェーン上で管理する。利用者が既定の使用料を仮想通貨で支払うとスマートコントラクト ※2 により自動的に権利者に分配され、利用者には楽曲ファイルが格納されたクラウドストレージへのアクセス権が与えられてダウンロードできるようなモデルだ(図2)。

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 「このモデルには、いくつかの課題があります。楽曲ファイルの持ち主が真の権利者であるとどう認証するのか。このモデルに全権利者が参加しない場合、非参加者への分配をどうするのか。無断利用をどのように特定するのか。さらに保護期間の問題があります。どのように没年を確認するのか、没後の管理をどうするのか。また利用者と使用料額を合意するまでのプロセスは集中管理団体が一番苦労するところ。積極的な使用料徴収の働きかけをせずに、このモデルは機能するのでしょうか。さらにデジタルでない、生演奏などのリアルな利用の管理には容易には対応できないと思います」(水谷さん)。

 猪熊さんも、このモデルのような仕組みが主流になるには、様々な前提が変わる必要があると語る。「多種多様な利用にワンストップで権利処理できる、また専門的な知識が豊富で信頼できるところが、集中管理の良い点だと思います。今問われているのは、集中管理からの完全なパラダイムシフトではなく、著作権管理の選択肢が増えることではないかと感じています」。そして仮にこのような仕組みが実現した場合、既存の集中管理団体が権利者の真正性について保証する第三者機関の役割を担っていくのではないか、と指摘する。「集中管理団体に管理を任せていないクリエイターについては、第三者がその権利の真正性を担保しなくてはならないでしょう。文化庁が取り組んできた音楽分野に係る権利情報集約化等に向けた実証実験にはNexToneはじめ、JASRAC、日本レコード協会、芸団協CPRA等、主要な集中管理団体も参加していますが、安全なコンテンツ流通を支える役割が集中管理団体に求められるかもしれません」(猪熊さん)。

 水谷さんも今後はアウトサイダーへの対応も必要と考えている。「デジタル・プラットフォーム上ではJASRACに信託されていない個人クリエイターの活躍の場が広がっています。そのような方々に対し自ら著作権管理するための知識やツールを提供することも、公益性が高いJASRACの役割の一つかもしれません」(水谷さん)。



※1:一方向ハッシュ関数に入力したデータから変換された一定の長さの無作為な文字列。入力したデータが異なる場合には全く異なる文字列が生まれるため、少しでも改変された場合にはすぐにわかる。またハッシュ値から元データを導くことができないため、改ざんに強い。
※2:ブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み。