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「バリュー・ギャップ問題」の解決に向けて−EU新指令採択−

芸団協CPRA事務局 榧野 睦子

 YouTubeのように、利用者が大量にアップロードしたコンテンツに、公衆がアクセスできるようにするサービスのプロバイダが、それらのコンテンツから得ている収益と、プロバイダからコンテンツの権利者に還元される報酬が不均衡である、いわゆる「バリュー・ギャップ」が大きな問題となっている。この問題に対処すべく、EUにおいて指令案が検討されているとCPRA news vol.87(2018年1月)で紹介したが、6月、同指令がついに発効した。これまでの経緯や指令の概要について報告する。

 指令とは、EU基本条約に基づき制定される法令である。EU加盟国は指令で定められた政策目標を達成するため、期限内に国内法の改正等を行わなければならないが、どのような措置を講ずるかは各加盟国に委ねられている。
 今回採択された「デジタル単一市場における著作権及び関連権に係る欧州議会及び欧州連合理事会指令("Directiveof the European Parliament and ofthe Council on Copyright and relatedrights in the Digital Single Market".以下「新指令」という。)」は、(1)著作物等のデジタル利用に関する権利制限、(2)EU域内での国境を超えたオンライン・コンテンツ利用の円滑化及び(3)創作者及び報道機関にとり、より公正なオンライン環境の整備について、加盟国が国内法で定めるべき内容を規定している。いわゆるバリュー・ギャップ問題への対応については、「オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダによるコンテンツの利用(第17条)」に規定される。

バリュー・ギャップ問題への対応

 バリュー・ギャップが生じるのは、YouTubeのようなオンライン・コンテンツ共有サービスが権利者の許諾を得ずに運営される、又はプロバイダ側に有利な条件でしかライセンス契約できないためである。その大きな要因として、次の二点で法律が不明確なことが挙げられる。

 第一に、コンテンツをアップロード等する行為、すなわち公衆への伝達行為又は利用可能化行為について、権利者はライセンス契約を締結し、報酬を得ることができる。しかし、公衆への伝達行為又は利用可能化行為を行うのは誰か、コンテンツをアップロードする利用者だけでなく、アップロードされたコンテンツに公衆がアクセスできるようにするプロバイダも含まれるのか、明確ではなかった。

 第二に、既存の指令(電子商取引指令第14条)では、ホスティング・サービスプロバイダは、利用者の違法行為等を知らなければ免責される他、権利者からの通知を受けた場合でも、ただちに違法情報を削除、または違法情報にアクセスできないようにすれば(いわゆる「ノーティス・アンド・テイクダウン」)、法的責任を負わないと規定している。この規定が、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダに適用されるのか、不明確だった。

 そのため加盟国によっては、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダ側に有利な判決を出す裁判所もあったことから、権利者は、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダ側が提示する不利な条件を飲むか、ライセンスを拒否して、無許諾コンテンツについて、ノーティス・アンド・テイクダウン手続を取り続けるか、選択を迫られることもあった。

 新指令第17条により、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダが、利用者のアップロードしたコンテンツに公衆がアクセスできるようにする行為は、公衆への伝達行為又は利用可能化行為であると、加盟国は規定しなければならない。したがって、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダは、行為主体としてライセンス契約の締結など、権利者から許諾を得なければならなくなる。なお、ライセンス契約には利用者の行為も含まれるため、利用者が非営利目的でコンテンツをアップロードする際に、別途権利者から許諾を得る必要はない。

 次にオンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダが権利者から許諾を得られず、利用者が無許諾アップロードをした場合、電子商取引指令第14条は適用されず、別の条件が課されることとなった。すなわち、責任を問われないためにオンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダは、①権利者から許諾を得るために最善の努力をしたこと、②権利者が情報提供をしたコンテンツが自身のウェブサイト上で利用できないよう、最善の努力をしたこと、③権利者からの通知を受け迅速に違法コンテンツを削除または違法コンテンツにアクセスできなくしたこと。そして、その違法コンテンツが将来的にアップロードされないよう最善の努力をしたこと、を証明しなくてはならない。これにより、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダには、ノーティス・アンド・テイクダウンだけでなく、同じ侵害コンテンツが繰り返しアップロードされないようにする「ノーティス・アンド・ステイ・・・ダウン」の義務も課されることになる。

 ただし、新興企業保護の観点から、EU域内でサービス提供を始めて三年未満かつ年間売上高1000万ユーロ未満のオンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダは、①とノーティス・アンド・テイクダウンの条件のみを満たせば、責任は問われない。ただし、月間ユニーク訪問者数の平均が500万人を超えると、ノーティス・アンド・ステイ・・・ダウンの条件も課されるようになる。

 最初に出された新指令案では、ウェブサイト上で権利者が特定したコンテンツが無断利用されないよう、プロバイダが講じる措置として、コンテンツ識別技術が例示されていた。そのため、権利制限に基づく利用など、適法コンテンツも自動的に削除されてしまうのではないか、ひいてはインターネットが検閲され、表現の自由が脅かされるのではないか、との不安が一般市民の間に広がり、新指令への大規模な反対運動につながった。

 採択された新指令の最終テキストでは、コンテンツ識別技術という記述はなくなり、欧州委員会は関係者対話を設置するとともにヒアリングを行い、その結果を踏まえて、第17条の適用、とりわけ①から③の条件を満たす具体的措置についてガイドラインを作成することとなった。本条の規定に反対していたYouTubeは、最終テキストは、以前より改良されたとしつつも、今後意図しない結果をもたらす可能性があるとして懸念を示している。そして今後は、新指令が与える影響について分析の上発信し、各加盟国の履行状況を注視するとともに、前述の関係者対話への参加も含め、権利者との協力システムを見出すとしている(※1)

著作者及び実演家への公正な報酬

 新指令では、実演家にとって重要な内容がもう一つ組み込まれた。著作者及び実演家は、著作権等をライセンス又は移転する際に、契約上弱い立場に置かれることが多い。そのため、著作者及び実演家が適切な報酬を得ることができるように、新指令では次のような規定が設けられた。

 ①著作権等をライセンス又は移転した際に、著作者及び実演家は適切な報酬を得る権利が与えられる。特に報酬の一括払いは、あくまで例外であり、通例としてはならないと前文に明記された。

 ②自分たちの得た報酬が、そのコンテンツの経済的価値と比べて適切かどうか判断する上で情報が必要である。そのため、ライセンス先又は権利移転先は、少なくとも一年に一度、定期的にコンテンツの利用に関し著作者及び実演家に対し情報提供しなければならない。その情報とは、コンテンツの利用形式やコンテンツの利用から生じた全収益などである。

 ③コンテンツが大ヒットした場合など、契約時に合意した報酬が、その後のライセンス先等の収益に比べて著しく低い場合、著作者及び実演家には追加報酬を請求する権利が与えられる。④著作権等を独占的にライセンス又は移転したが、ライセンス先等が、そのコンテンツを市場に流通させなかった場合、著作者及び実演家には、ライセンス先等に利用期限を通知し、期限経過後に、当該ライセンス又は権利の移転を終了させるか、あるいは独占ライセンスであることをやめ、他にもライセンスできるようにする権利が与えられる。

 ④著作権等を独占的にライセンス又は移転したが、ライセンス先等が、そのコンテンツを市場に流通させなかった場合、著作者及び実演家には、ライセンス先等に利用期限を通知し、期限経過後に、当該ライセンス又は権利の移転を終了させるか、あるいは独占ライセンスであることをやめ、他にもライセンスできるようにする権利が与えられる。

 国際音楽家連盟(FIM)等4つの実演家組織は、"Fair Internet for Performers!"のキャンペーンを行い、利用可能化権譲渡後も、実演のオンデマンド利用に対し公正な報酬を受ける権利を実演家に付与すること、そしてその権利を実演家が放棄できないようにし、権利管理団体によって管理されることを新指令に規定するよう求めてきた。

 そのような文言は入らなかったものの、新指令は正しい方向への最初の一歩である、と評価している。そして、新指令の履行段階において各加盟国の法令に、上述のような規定が盛り込まれるよう、働きかけていくとしている(※2)

今後の展望

 前述のとおり、第17条を巡って、EU加盟国内では新指令への強い反対運動が起きた。その影響もあってか、欧州連合理事会での新指令採択にあたっては、フィンランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポーランド及びスウェーデンが反対票を投じ、ベルギー、エストニア及びスロベニアは棄権した。また大規模なデモ行進が行われたドイツは賛成票を投じたものの、第17条に関し声明を出した(※3)。すなわち、同条はオンライン・コンテンツ共有サービスでのコンテンツの利用に対し、著作者及び実演家が適切な報酬を得られるようにすることを目的としており、オンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダの責任免除条件のうち①が、本条履行の上で重要である。本条の対象は、市場独占的なオンライン・コンテンツ共有サービスプロバイダであることを明確にし、表現の自由と利用者の権利を守るためコンテンツ識別技術の導入は可能な限り避けるべきである、との考えが示されている。新指令賛成派、反対派のロビー活動は、各加盟国レベルへと場を移している。今後、加盟国でどのような法改正等が行われるのか、注視していきたい。

【注】
※1:https://www.youtube.com/saveyourinternet/  (▲戻る)
※2:https://www.fair-internet.eu/eu-parliament-adopts-copyright-directive-final-text/  (▲戻る)
※3:Statement by Germany on Draft Directive of the European Parliament and of the Council on Copyright andRelated Rights in the Digital Single Market and Amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (first reading)(2016/0280 (COD), p.2)  (▲戻る)