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インターネット放送にかかる実演家の権利のあり方

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IFPIによると、世界のレコード産業の売上は、前年比9.7%上昇した。この一因に、音楽配信サービスの売上が前年比21.1%上昇したことが挙げられる。インターネット放送など音楽配信サービスが広がる中、実演家の権利はどのようにあるべきなのか。日本の実務やアメリカの著作権制度にも詳しい安藤和宏東洋大学法学部教授にお話を伺った。

(芸団協CPRA事務局 君塚 陽介)

日本の音楽配信サービスはどのような状況でしょうか。

 1998年以降、オーディオレコードの生産金額は減少していますが、2013年以降、有料音楽配信の売上は増加し、2018年の総売上は、前年度より増加しました。なかでもサブスクリプションサービスは前年比133%と好調で、ダウンロードを逆転しました。私の大学の学生も、半数近くがサブスクリプションサービスを利用している状況です。

日本には「送信可能化権」がありますが、国際条約や諸外国はどうですか。

 WIPO実演・レコード条約(WPPT)では、レコードに固定された実演に、許諾権である「利用可能化権」と、「公衆への伝達」に報酬請求権を与えています。「利用可能化権」はオンデマンド型音楽配信サービスに適用され、放送と同時に送信するサイマルキャスティングや、インターネット独自で一方的に配信するウェブキャスティングのようなインターネット放送は「公衆への伝達」にあたり、報酬請求権が適用されます。諸外国でもインターネット放送に報酬請求権を適用する国がほとんどです。日本は、インターネット送信に「送信可能化権」という許諾権が一律に適用され、世界では特異な制度となっています。ここに、日本で、インターネット放送があまり流行っていない一因があるのではないかと考えています。

なぜ許諾権の適用が一因なのですか。実演家に不利益があるのでしょうか。

 日本では、配信事業者は原盤権を保有するレーベルに許諾申請します。レーベルは許諾できる原盤か確認し、原盤を特定して許諾します。つまり、一部の原盤を除き、レーベルに利用諾否の権限があります。配信事業者はレーベル毎に原盤使用料を支払うことになり、大変な作業となります。

 そして、レーベルはレコーディング契約に基づいて、実演家に使用料を分配しますが、昔の契約書には音楽配信について記載されておらず、そもそも契約書がないことすらあります。また、配信事業者間で明細書の書式が統一されていないうえ、実演家への分配は手作業となるため、レーベルにとって大きな負担です。また、レーベルから実演家に支払われる使用料は、配信価格の1~2%程度です。しかも、レーベルは契約書を交わしていないスタジオ・ミュージシャンについて一括払いの演奏料によって権利処理されていると理解しているため、使用料は一切分配されません。一方、アメリカには強制許諾制度があり、権利処理が簡便で、実演家にも適正な使用料が分配されています。

アメリカの強制許諾制度について聞かせて下さい。

 アメリカには、日本のような著作隣接権制度がありません。日本でいう原盤、すなわちサウンドレコーディング(録音物)は、製作者(プロデューサー)と実演家との共同著作物と考えられています。製作者と実演家とは同等の立場とされています。サウンドレコーディングには、デジタル音声送信権が付与されています。この権利は、デジタル形式でサウンドレコーディングを送信する排他的独占権です。ただ、一定の要件を満たす場合には、配信事業者は許諾を得ることなく、既定の使用料を支払うことで、アメリカ国内の全てのサウンドレコーディングを使用できます。

 アメリカ著作権法に、一定の要件が詳細に定められています。例えば、リスナーが自分の聴きたい曲を選択できないこと、配信曲を事前に告知しないこと、送信中に曲名、アーティスト名などを表示すること、同じアーティストの曲や同じアルバムから複数曲を3時間以内に送信する場合には曲数制限に従うことなどです。オンデマンド型音楽配信サービスと競合しないよう配慮しているのです。

 配信事業者は、一定の要件を満たすサービスに強制許諾制度を利用できます。配信事業者はサービス開始前に、著作権局に使用通知書を提出する必要があります。そして、支払明細書や使用報告書と共に、SoundExchangeに使用料を支払います。これとは別に、サウンドレコーディングに含まれる音楽著作物について音楽著作権集中管理団体等から許諾を得る必要があります。

SoundExchangeとは、どのような団体なのでしょうか。

 2003年に設立され、国から唯一の指定を受け、強制許諾制度に基づく使用料の徴収・分配を行います。全ての強制許諾制度の利用者は、SoundExchangeに使用料を支払い、レーベルや実演家は、SoundExchangeから使用料の分配を受けます。分配額の推移をみると、インターネット放送の大手PandoraRadioがレーベル分について直接使用料を支払ったため、2017年に一時期落ち込みましたが、右肩上がりで、2018 年には9億5,280 万ドル、つまり1,000億円以上を分配しています。

 支払われた使用料は、レーベルに50%、実演家に50%で分配されます。つまり、アメリカではインターネット放送からの使用料はレーベルと実演家とで「50:50」なのです。日本は1~2%程度ですが、アメリカでは50%なので、実演家にとって有利なものです。

日本も、アメリカのような強制許諾制度の導入が望ましいのでしょうか。

 アメリカの強制許諾制度にもメリット・デメリットがあります。いくつかの選択肢と比較してみましょう。制度改正を伴うのであれば、強制許諾制度、報酬請求権、権利制限+補償金請求権という三つの選択肢が考えられます。さらに制度改正を伴わない、集中管理も考えられます。

 まず、強制許諾という法制度です。これは強制許諾の要件を満たせば、誰でも自由にインターネット放送することができるというものです。強制許諾制度の利用には、配信事業者による著作権局への登録が要件となり、その所在、身元が明らかとなるため、権利行使の実効性が高いのがメリットです。そして、アウトサイダー問題も生じません。一方、デメリットとして、配信事業者が強制許諾制度を利用せず、レーベルから直接許諾を得ることも可能なため、レーベルから実演家への適正な使用料の分配が行われない可能性があります。しかし、このデメリットは、実演家が送信可能化権をレーベルに譲渡しても、集中管理団体にのみ譲渡可能な報酬請求権を実演家に与えるという法制度の導入で解決できます。実際、スペインがこの制度を採用しています。その他のデメリットとして、ローマ条約により、ウェブキャスティングのためのサーバーへの複製には、強制許諾制度が認められない可能性もあります。

 次に、インターネット放送を報酬請求権の対象とする法制度です。放送や有線放送など公衆送信の諸概念を見直して、インターネット放送を報酬請求権(二次使用料)の対象とするものです。配信事業者は許諾を得ずに、使用料さえ支払えばよく、インターネット放送の促進が期待できます。また、指定団体が使用料の徴収・分配にあたるため、実演家への適正な使用料が確保されます。一方、報酬請求権では、配信事業者が使用料を支払わなかったとしても、配信行為の差止めができません。また、ニアオンデマンド型のインターネット放送が濫立すると、音楽CDやオンデマンド配信と競合するおそれもあります。

 最後に、権利制限+補償金請求権という法制度です。送信可能化権を一定のインターネット放送に限って権利制限し、レコード製作者と実演家に補償金請求権を与えるものです。そして、権利制限に詳細な要件を付すことで、音楽CDやオンデマンド配信との競合を避けることも可能です。要件に、登録制度を採用することで、権利行使の実効性を高めることもできるでしょう。しかし、報酬請求権制度と同様に、差止めができないという問題が生じます。

集中管理をする場合はどうでしょうか。

 著作権等管理事業法に基づいて、送信可能化権を集中管理するという選択肢ですね。管理事業者には応諾義務があるため、原則として利用許諾を拒めず、インターネット放送の促進が期待できます。ただ、実演家だけでなく、レコード製作者の権利も著作権等管理事業法に基づいて集中管理されなければなりません。さらに、アウトサイダー問題も生じます。配信事業者は、管理外の原盤を使用しないこともあり得ますが、魅力あるインターネット放送は実現できません。

安藤先生はどの法制度が望ましいとお考えでしょうか。

 アメリカや欧州はインターネット放送について、実演家とレコード製作者の分配比率は「50:50」です。また、日本の放送二次使用料では、実演家とレコード製作者間で「50:50」が実現されています。したがって、放送類似サービスのインターネット放送も「50:50」が当然実現されるべきです。そのための制度設計は、日本の著作権制度の体系や実務も踏まえつつ、選択肢を組み合わせたり、選択肢のデメリットを解決する仕組も併せて検討すべきです。各国の経験を踏まえ、「いいとこ取り」もあるでしょう。私個人は「強制許諾制度+スペイン法アプローチ」がいいと思います。なお、欧州では、オンデマンド型音楽配信サービスについて、実演家に対してどのように適切な対価が支払われるべきかが議論されています。この点も視野に入れる必要があるでしょう。