SANZUI vol.03_2014 winter

裏舞台という名の表舞台

Photo / Anna Hosokawa   Text / Kiyoshi Yamagata

舞台は客席から見える表舞台と
見えない裏舞台によって
成り立っている。
舞台を裏で支える人に光を当てる。

STAGE 06舞台美術家 土屋茂昭

舞台を構成するのは、役者と演出家、そして美術、照明、音響などの創作スタッフ。中でもビジュアル面での責任を担っているのが、舞台美術家の仕事。舞台という芝居が行われる"場" を創り上げる上で大きな役割を担っている。舞台装置は一体どんな発想でどんな手順で作られているのか?舞台美術家の第一人者である土屋茂昭さんに教えていただいた。

「かつては、舞台の背景を描いて作るというのが、舞台美術家の仕事でした。それが日本でいうと1950年代に金森馨さんや高田一郎さん、朝倉摂さんといった舞台美術家が登場し、概念が大きく変わりました。金森さん曰く、"作品のテーマと演出家のイメージを重ねて、舞台空間を創り上げることが舞台美術家の仕事だ"-僕らの仕事は、まずは演出家と打ち合わせをして、ス ケッチを描くことから始まります」

舞台美術家は演出家と同じアーティスト。作品からテーマ性を見つけるのが、何よりも大切なのだという。

「演出家によって舞台美術家のやり方も変わります。蜷川幸雄さんのように演出家として舞台美術に関して強烈なイメージを持っていて、それを舞台美術家が具現化する場合が一つ。浅利慶太さんなどはビジュアルのイメージではなく、強烈な言葉を持っています。『鹿鳴館』の時は、"人間が多重層に歪んで一つの場に出会う物語だ"という言葉だけ。これで、舞台美術を考え てくれって(笑)。仕方がないからスケッチを100枚くらい描きます。浅利さんのところに持って行くとその中から5、6枚選んで、さらにそのイメージで次の日までに50枚くらい描いて持っていく。いいか悪いかを言うだけで、こうした方がいい、こうしてくれとは言わない。いま考えると舞台を100通りの視点で見ることを学びました。いまの僕があるのは、こういった修業のお陰だと思います」

土屋さん、いまでもスケッチや図面を描くのも彩色もすべて手描き。緻密さと温度を感じさせる味わい深さがある。

「手描きの方が俯瞰的に舞台全体を思い浮かべられます。偶然、ハッとするような思わぬ表現や味が出ることもあるんですよ。このスケッチをもとに、図面を起こしたり、最終的には模型を作って、実際の舞台装置を創り上げていきます」

演出家や創作スタッフらと模型によって一つひとつの場面のイメージを綿密に確認しながら、舞台装置は生み出される。

「仕事の醍醐味は、自分がイメージして思い描いたものが、舞台の上で実際に形となって現れ、僕ら演劇人がいうところの演劇的時間の中に存在して、観客から拍手を浴びることですね。舞台装置も時間という概念を持つべきだと思います」

舞台装置はモノとして舞台の上に存在しているのだが、幕が開き俳優たちが演ずるドラマの展開とともに演出のイメージを伝えながら表情を変え、幕が下りるとともに消えていくものなのだ。

「演出のイメージ、役者、そして観客とも時間を共有していく舞台装置をこれからも創っていきたい。後世に残る演劇に携わっていけたら舞台美術家としてこれ以上の幸せはありませんね」

土屋さんが副理事長を務める日本舞台美術家協会が2014年の3月21日から30日まで『Pの間』という舞台美術展を東京芸術劇場のギャラリーで開催する。

「PLAY=発想、PLAN=共有、PLEASURE=喜び、という3つの"P" をテーマに舞台美術家の創作過程からプレゼン模型や道具帳、舞台模型や衣裳などを展示して、舞台美術家の仕事をさまざまな角度から解剖します。舞台芸術の中における舞台美術を理解していただけます。僕らの舞台裏を知って舞台をさらに楽しんでほしいですね」


PROFILE 舞台美術家。1951年生まれ。劇団四季美術部員として金森馨、ジョン・ベリーに師事。83年に専用劇場で上演されたミュージカル「CATS」の美術総合デザインを担当。96年ザルツブルグ音楽祭オペラ「エレクトラ」舞台美術を手がける。2000年にフリーとなりTSUCHIYA CO-OPERATION設立。ミュージカル「李香蘭」「エビータ」や「鹿鳴館」など数多くの公演を手がけ、近年は、各地域の劇場などにも作品創造を通じて活動の場を広げている。

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