SANZUI vol.01_2013 summer

特集 声

Text / Kiyoshi Yamagata

日本の声優の歴史 羽佐間道夫日本の声優の草分けでもあり、今も第一線で活躍する羽佐間道夫さん。
映画『ロッキー』の迫力と含蓄のある声は
浄瑠璃を海に向って語ることでトーンが作られた。
声で人々を魅了し続ける羽佐間さんに日本の声優の歴史を伺った。

僕らの世代は声優を目指してこの世界に入った人は一人もいないと思いますよ。みんな舞台俳優かラジオドラマなどの出身者。声優という仕事が生まれた背景には、1953年に登場したテレビの存在があります。当時は、日本の映画会社はテレビに対する反発がとても強く、人気があった邦画をなかなかテレビで放送させてもらえなかった。そこで日本の放送局はハリウッド映画に活路を見いだしたのです。

最初は映画館と同じく字幕でやっていたのですが、当時のテレビは解像度が低く、字幕が鮮明に見えない。特に濁音や半濁音。「雨の朝パリに死す」が「雨の朝ハリに死す」になっちゃった。そこでラジオドラマや新劇の若手研究生に白羽の矢が立ち、映画の吹き替えをする声優が生まれた。当時は全てアナログで一発録りですし、そもそもみんな役者ですから、録音スタジオはまるで舞台さながらの緊張感でした。それぞれの声の役作りも半端ではなかった。

日本の声による語りの歴史には浄瑠璃や小唄、落語など古くから連綿と受け継がれてきた素晴らしい伝統芸能があります。僕ら声優はそれら先人の文化や観客の感動を土台にして、声による表現を極めて行かなければならない。声優の世界もデジタル化され、昔のような緊張感や臨場感、間が失われつつあります。そこで、いまあえてチャップリンなどの無声映画にせりふをつけて舞台空間でライブを開催しています。これが実に面白い。声優の魅力や可能性がさらに広がったと思います。声優がますます面白くなってきますよ。

声の科学普段われわれがほとんど意識せずに使っている声。
しかし「声を出し」、「言葉を話す」ことは人間の一番大きな特徴でありそれによって脳が発達して進化して文明や文化を作り上げて来た。
声の良し悪しや心地良さとは何か、科学してみた。

声は「高低」「強弱」「音色」の三要素で成り立っている。それぞれ周波数ヘルツ、音圧デシベル、波形で表される。気に障る音声は周波数が4千から8千ヘルツ。音圧が70デシベル以上。波形の密度が高く特定の部分に集中しているものである。

では心地良い声とは何か?最近の科学では、1/f のゆらぎが多く含まれているものだといわれている。図のように微妙に揺らぎながら一定の波形を示す自然界の基本リズム。小川のせせらぎやろうそくの炎、モーツァルトやバッハなどにも含まれている。美空ひばり、ジョン・レノンなど長く愛されている歌手にも多い。

そして「通りの良い声」の条件は腹式呼吸で声帯の振動が安定し、空気の流れが乱れないことと、声が高周波数まで伸びていることの2つだけ。最終的な声の良し悪しの判断は、演者の情熱と観客の感性に委ねられるようだ。

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