PLAZA INTERVIEW

vol.026「いい歌には世代をこえた共感が」

デビュー曲は『あばれ太鼓』。大ヒット曲は『能登はいらんかね』や『夜桜お七』。「坂本冬美といえば演歌」「日本の演歌界を代表する女性歌手」という強いイメージをいだいてきた音楽ファンの概念を、大きくくつがえした09年リリースの『また君に恋してる』。「180万超のダウンロード」という実績が、その数字以上に、若い世代から支持され広まったことを如実に物語っている。実はこの坂本さん、かつて細野晴臣さん、忌野清志郎さんとともに「HIS」というユニットを結成したり、世良公則さんの『銃爪(ひきがね)』をカバーしたりと、ロックのミュージシャンとも深い交流をもち、演歌界を超えた幅広い音楽活動を展開してきた。その、ロックと根底でつながる思いは、「魂で歌う」こと。『またきみに恋してる』のヒットを一つの新たなステップに、『ずっとあなたが好きでした』という新曲リリース直前の坂本さんに、CPRA広報委員会の松武秀樹委員長が、「良い歌は世代を超えて受け入れられる」と実感したという坂本さんの「歌」への思いを伺った。
(2010年09月17日公開)

Profile

歌手 坂本冬美さん
1967年和歌山生まれ。87年に『あばれ太鼓』でデビュー。91年に細野晴臣、忌野清志郎「HIS」を結成するなど、ロックミュージシャンとの親交も深い。02年に1年間芸能活動を休止したが、翌年4月に復帰。09年1月に『アジアの海賊』のカップリングで発売した『また君に恋してる』が、ダウンロード数180万超、CD売上40万枚の大ヒット。暮れの第60回紅白歌合戦出場、第51回「輝く!日本レコード大賞」優秀作品賞受賞へ。10年9月、『ずっとあなたが好きでした』リリース。

猪俣公章氏の弟子として7年

026_pho01.jpg ―― 坂本さんは、1986年にNHK『勝ち抜き歌謡天国』和歌山大会で名人となり、審査員をつとめていた猪俣公章先生の内弟子になりますが、先生の想い出を振り返ると...。
初めての出会いは3月1日で、とても寒い日でした。先生がマスクをしていらしたので、「先生、お風邪ですか」って聞いたら、「違うんだよ。見てごらん」てマスクをとると、唇の上のところがすごい傷になってるんです。「酔っ払って転んじまったんだよ。ガハハハ」って(笑)。私は最初すごく緊張していたんですけど、なんて楽しい先生なんだろうって気が楽になったのが最初の出会いでした。

―― その時のレッスンは厳しかったですか?
いえ、その人に合った教え方をして下さって、人を気分よくさせる名人だったと思います。ポイントをすごく分かりやすく言って下さるんです。最初は自分流に歌っていいよって言ってくれて、それから「ここはささやけ」「ここはだんだん気持ちを込めて歌っていけ」と、本当にわかりやすく説明して下さって。時間は短いけれども、内容の濃いレッスンをして下さいましたね。

ロックミュージシャンとのコラボで

―― 87年に『あばれ太鼓』でデビューされますが、初期は『祝い酒』『男の情話』など男の人の心を中心にしたものが多いですね。去年発売された『アジアの海賊』にもつながる部分があるのかなと思うのですが、男の気持ちを歌う坂本さんの気持ちは?
理想の男性像をどこかに描いて歌うんです。最近では、いつの間にか自分が男になりきって歌ってます。強いけれどもやさしくって、懐の深い男性像を思い描いて歌っています。

―― 同じく87年に、忌野清志郎さんのコンサートでプレゼンターとして花束をお渡しになっているのですが、忌野さんの印象は?
私自身が学生のころ、清志郎さんは坂本龍一さんと『い・け・な・いルージュマジック』で共演されていて、メイクばっちりの映像が流れていた記憶があったんです。花束を渡したときもそういう姿だったんですけど、とてもシャイな方で、目が合うと、そらしてしまうようなタイプの方なんだなという印象でした。

026_pho02.jpg ―― 90年に『能登はいらんかね』を発売されたあと、清志郎さんたちと「SMI」を結成されるんですが、その経緯は...
「ロックが生まれた日1990」というイベントをやるにあたって、レコード会社が結成したんです。「M」は三宅伸治さんでしたけど、それが後の、細野晴臣さん、清志郎さんとの「HIS」につながっていくんです。細野さんもやはり私のこぶしに興味をもってくれて、一緒にやってみたいと言って下さったみたいです。

―― 「ロックが生まれた日1990」では、大阪の野外音楽堂と東京・日比谷野外音楽堂でライブを開催されていますね。
演歌でデビューしてわずか4年目なので、まったく違うジャンルの世界に飛び込んでいくのは勇気がいりました。けど、セーラー服を着たことによって、「やっちゃえ」みたいな、いい開き直りができたんです。

―― これ以外にも、ロックのアーティストなどといろいろ接点がおありですけど、どういうタイミングで出会うんですか。
これはすべて、清志郎さんに声をかけていただいてっていうところから始まっているんです。最近は中村あゆみさんに曲を書いていただいていますが、あゆみさんとは、たまたま加山雄三さんが毎年夏に越後湯沢でやってらっしゃるイベントに私がゲストで出たとき、あゆみさんも出ていらして。話していたら同学年だってわかって、意気投合したんです。初対面でアドレスを交換して、私のコンサートを観たいって、いらしてくれて。『アジアの海賊』はご自分がもっていらっしゃった歌なんですけど、「これ絶対に冬美ちゃんに合うから歌ってよ」っていうことで、いただいたんです。

―― やはり、そういう方たちと意気投合する、何かがあるんでしょうね。
清志郎さんもあゆみさんもそうですけど、魂で歌ってますよね。そういう意味では、私もけっこう魂で歌うほうだと思うので、ジャンルはまったく正反対かもしれないけど、そういうところで何かを感じてくれたのかなって思います。

ダウンロード数180万超の実感

―― 『アジアの海賊』のプロモーションビデオなど拝見させていただき、非常に面白い形でつくられているなと思うんですが、そのビデオをつくられた時は...
私がいかに女らしくないかっていうことを、思い知らされました(笑)。CGで、桜の花びらが手の平に落ちて、ふっと吹くシーンがあるんです。監督がとても繊細な方で、何回もやりなおしをさせられた末に、「本当に女っぽくないね」って言われちゃったんです(笑)。でも、それぐらい真剣に、凝ってつくっていただいたので、ぜひご覧下さい。

―― 08年11月11日からの「いいちこ」CMの新商品で、『また君に恋してる』が流れ始めたわけですね。
ずっと「いいちこ」のCMをプロデュースされてきた方が、新商品を出すので女性のアーティストがいいと言われて、ご指名をして下さったんです。でも、歌ってみたら意外と難しかったんです。引き受けたけど、歌えるかしら? みたいなところはちょっとありましたね。

026_pho03.jpg ―― 難しいというのは、どのへんが?
詩の世界の表現とかじゃなくて、息継ぎが難しい曲なんです。かといって、「はあ~」なんて、「いまブレスしましたよ」ってやっちゃいけない歌じゃないですか。さりげなく歌わなきゃいけないので、それが一番大変だったですね。

―― そのあとも、カバーアルバム『また君に恋してる』を出されたり、ライブや紅白歌合戦でもこの歌を歌われているのですが、若い人たちも利用する携帯電話やパソコンへのダウンロード数が、200万近い数字になっているんですね。こういう反響を、どう感じていますか。
とても不思議な、奇跡的なことだと思います。昭和の時代には、先輩方がミリオンセラーをいっぱい出されていたんですけど、正直言って、いまはもうCDがあまり売れない時代になっていますよね。先輩方たちのように私もいつかヒットを出したいと思ってはいましたけど、どこか、もうこの時代では無理なのではというあきらめもあったんです。

―― ダウンロード数が伸びているという実感は...
私なんかの世代は、CDが何万枚といわれるとなんとなく想像がつくんですけど、ダウンロードといわれても、ちょっとすぐにはわからない感じはあります。でも、今年に入って、「すごくダウンロードされてますよ」って聞いたりして初めて、本当に幅広い世代の人たちに支持していただいてるんだなあっていうことを実感してきました。

―― そうなんです。この大ヒットの背景には、若い人たちに浸透したことがあると思うんです。
一番うれしかったのは、やはりそこですね。ダウンロードしてもらった数とかじゃなくて、若い方たちに支持していただいたこと。初めて私を知って下さった方も大勢いるでしょうし、私が歌うんだから演歌だと思っていた方もいらっしゃるでしょう。そういう方たちにも、いい歌は認めてもらえるんだとわかったことが何より収穫だと思うし、今後いろんな歌を歌っていく上で、ものすごく勇気をいただけた感じがします。

「ステージでの生の歌声もぜひ」

026_pho04.jpg ―― 9月29日に出される新曲『ずっとあなたが好きでした』を聴かせていただきましたが、若い女性にすごく訴える歌だと思います。坂本さんの歌声を、そういう若い人たちに届けてほしいと思います。
そうですね。せっかく『また君』で私を知っていただいたので、詩の内容はちょっと違いますが『また君』の延長線上で、前回ダウンロードしていただいた方、また新しく私を知って下さる方に聴いていただき、広がっていったらうれしいと思っています。

―― さらに、来年はデビュー25周年ですね。
はい。ですから、来年は演歌に戻ってもいいのかなって思っています。いままで何年も歌ってきて、またこれから先も歌っていくなかで、これほど若い人に支持をいただくことってまずないと思うんです。肩ひじ張って売ろうとせずに、自然の流れで皆さんの耳に届き、「あ、次の歌もいいじゃん」て思ってくれたらうれしいと思っています。

―― 最後に、今年後半から来年にかけてのご活動の予定と抱負をお聞かせ下さい。
この秋はコンサートがたくさん続きますし、来年1月は藤あや子さんと、初めて博多座にお邪魔して1カ月公演をやらせていただくことになっています。ステージが中心になっていきますけど、こうやって知っていただいた方に、ステージもぜひご覧いただけたらと思います。やはり、自分らしさを一番表現できるのはステージですし、生のお客様の声も聞かせていただけますのでね。

―― 健康にご留意されて、これからも歌の世界の活性化にご活躍ください。今日はどうもありがとうございました。

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