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新MINCが本格始動 -音楽権利情報データベースの歩みとこれからについて 末吉亙氏と畑陽一郎氏に聞く

末吉 亙(弁護士)、畑 陽一郎((一社)音楽情報プラットフォーム協議会代表理事)

音楽情報総合ポータルサイト「音楽の森 Music Forest」を運営してきたミュージック・ジェイシス協議会(旧MINC)を発展的に解消する形で、2021年4月、一般社団法人音楽情報プラットフォーム協議会(新MINC)が発足した。
新MINCは、文化庁・実証事業の成果物である基本データベース及び一括検索サイト「音楽権利情報検索ナビ」の運用を主たる事業とする。「音楽権利情報検索ナビ」は、2022年1月に施行される令和3年著作権法改正に関連して重要な役割を担うこととなっており、そのための準備も着々と進められている。
デジタル技術の進展・普及に伴いコンテンツ市場をめぐる構造が変化し、膨大かつ多種多様な著作物について簡素で一元的な権利処理が求められる中、権利情報を集約したデータベースの構築が注目を浴びている。
これまでの歩みと今後の展望について、文化庁・実証事業及び調査研究の検討委員会座長を務めた末吉亙弁護士と、畑陽一郎新MINC代表理事に話を聞いた。(取材日:2021年12月14日)

基本データベース、「音楽権利情報検索ナビ」構築までの歩み

 著作物の利用には、原則、権利者が誰なのかを確認の上、連絡を取り、許諾を得る必要がある。膨大かつ多種多様な著作物が利用されるようになるとともに、権利処理に慣れていないユーザーも増えてきており、権利処理の円滑化と適法利用の促進に注目が集まるようになっている。

 1993年11月にまとめられた文化庁・著作権審議会マルチメディア小委員会「第一次報告書-マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として-」では、このような時代の到来を予見し、様々な分野の著作物等に関して各権利者団体が管理している権利情報を統合し、利用者に一つの窓口で提供するという「J-CIS(Japan Copyright Information Service)構想」を提言した。
1999年1月、音楽権利者団体である日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本レコード協会及び芸団協CPRAはこの構想に基づき、任意団体であるミュージック・ジェイシス協議会(旧MINC)を設立し、各団体が保有する情報を整理・統合した「音楽の森 Music Forest」のシステムを開発し、運営を行ってきた(2017年10月より、NexToneが参加)。

 J-CIS構想は残念ながらとん挫したものの、再度、文化庁・著作権分科会における審議において、著作物等について権利処理を行う場合の前提として不可欠な権利情報を集約したデータベースや権利処理のプラットフォームとなるポータルサイト等の構築を検討することが必要であるとされた。
これを踏まえ文化庁は、平成27(2015)年度に「著作物等の利用円滑化に資する権利情報の管理及び活用に関する調査研究」を行った。同調査研究では、他分野への波及効果が期待できるとして、他の種類の著作物より権利情報の整備が進んでいる音楽分野について施策の検討が進められた。その上で、当面取り組む全体的な課題は、権利情報について複数のデータベースの検索結果をまとめて参照できるような総合的な検索の実現と、音楽出版社やレコード会社などと契約を交わしていない無所属の創作者について権利情報を整備することであると結論づけた。
この提言を受けて、平成29(2017)年度より3年間にわたり、「コンテンツの権利情報集約化等に向けた実証事業」が行われた。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「『音楽の森 Music Forest』のデータベースは日本レコード協会会員社が発売・販売するCDの情報に限られていました。そのため、旧MINC時代から、インディーレーベルやネットクリエイターなど、日本レコード協会会員社以外のレコード製作者が発行したCDや配信音源まで広げていきたいと考えていました。ただし、どうやってこれらの方々にご協力いただくか、データ整備のコストをどうやって捻出するかという2つの課題があり、なかなか着手することができませんでした。
そのため実証事業は、旧MINCにとっても、『渡りに船』というところもありました。実証事業の大きな目的の下、インディーレーベルを代表するレコード製作者団体やネットクリエイターの団体にも積極的にご参加いただき、基本データベースを構築できた意義は大きかったと思います。また、実証事業を通じて、インディーレーベルの間でも、データを集約し利活用していくことの重要性や意義についての理解が深まったことは、業界全体にとって意味があることだと感じています。」

 実証事業では、「音楽の森 Music Forest」のデータを中心に据えつつ、インディーレーベルのCDや配信音源、さらには旧MINCの取組みで十分収集しきれていない2000年以前の発売CDの情報も順次取り込み、基本データベースを構築した。併せて、基本データベースをネット上で一括検索できるサイト「音楽権利情報検索ナビ」を構築し、各年度において一定期間、実験公開を行った。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「新たに収集したレコード情報を取り込むだけでなく、該当する音楽作品の著作権に関する権利情報をJASRAC及びNexToneから提供いただき、基本データベース上で相互連携(紐づけ)する作業も必要でした。また、支分権ごとに管理の委託先が違う著作者・著作権者もいるため、「音楽権利情報検索ナビ」ではJASRAC及びNexToneによる支分権ごとの管理状況を音楽作品ごとに一覧化して表示するようにしました。JASRACとNexToneでは支分権の分け方が必ずしも一致していない等の課題もあり、一覧化は意外と大変な作業でした。」

 img000679_1.jpg 畑陽一郎氏「『新MINC』の設立と活動について」(コピライト2021年11月号掲載)の図3をもとに作成

 平成27(2015)年度調査研究では、プラットフォームは長期にわたり運用されるべき性質のものであることから、民間事業者を主体として運用すべきであることが示された。そのため実証事業の開始当初から、その終了後は、基本データベースと「音楽権利情報検索ナビ」を民間で自走することが謳われていた。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「新たな一般社団法人を立ち上げる調整に一番苦労しました。3年間の実証事業が終了する段階では具体的な結論には至らず、そこで検討された方向性を踏まえた上で、運営組織の在り方や実施する事業、費用捻出の方法など多くの課題を解決する必要があり、設立まで1年かかりました。」

 3年間の実証事業では、散在する権利情報のうち、インディーレーベルや個人クリエイターの団体の協力により収集可能な権利情報をデータベース化した。
 しかし、インターネット等を通じて著作物を創作し、発信することが可能になっている今日、これらの団体に所属しない権利者が増えることが予想され、そうした個人クリエイターの権利情報の集約化も求められる。そのような権利情報の把握は権利者自らの申告なしには難しいため、令和2(2020)年度からは無所属の個人クリエイター等の権利情報集約化及び利用円滑化を図るために、権利情報登録窓口の設置に向けた調査研究が進められた。本調査研究は途中で、放送番組のインターネット同時配信等に係る文化審議会での検討の進捗を踏まえて、法改正を前提とした権利情報登録窓口の在り方に検討の方向性を転換することとなった。すなわち、改正著作権法により、放送番組で使用するレコード及びレコード実演について、通常の使用料に相当する補償金を支払えば、許諾を得ることなく放送同時配信等でも使用できる権利制限規定が導入された。
 ただし、日本レコード協会や芸団協CPRAに管理を委任するレコードやレコード実演は除外される他、両団体に委任していないレコード及びレコード実演であっても、「音楽権利情報検索ナビ」に文化庁長官が定めた情報を掲載することで、権利制限の対象外となることとなった。そのため、本調査研究は、権利制限から外れ利用の都度許諾を求める非委任者を対象とした音楽権利情報の登録窓口システムの構築に検討の主眼を置くこととなった。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「登録窓口の調査研究においては、個人クリエイター等が権利情報を登録するインセンティブをいかに創出するか、またどのように啓発していくかが大きな課題でした。今回の法改正とリンクすることで、登録の意味が明確になり、同調査研究は意義深い事業になったと感じています。」

これからの課題、そして展望は

 新MINCが「音楽権利情報検索ナビ」を一般公開してからの反響はどうか。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「メインユーザーである放送事業者からの問い合わせが急増しています。今般の法改正の影響もあると思いますが、放送同時配信等が当たり前になるにつれて、日本レコード協会での集中管理で許諾を得られるレコードか、それとも個別に権利処理が必要なレコードか、確認する用途での同サイトの利用が非常に増えています。ユーザーの意識や要求も高くなってきているため、我々としては、より正確で網羅性の高い情報を掲載していかなくてはならないと肝に銘じています。政府、利用者、社会からの期待がますます高まっていると実感しています。」

 平成27(2015)年度の調査研究並びにその後の実証事業及び調査研究の検討委員会で座長を務めてきた末吉弁護士は、一連の取組みを次のように評価する。

末吉亙 弁護士 「コンテンツの利活用を促進しつつ、クリエイターに対する対価還元を充実させるためには、権利情報の集約化は不可欠です。しかし、それはとても険しい道のりでした。時間はかかりましたが、実証事業や調査研究を通じて、円滑な権利処理のための権利情報集約化を音楽分野で進展させてきました。いわば、実証事業や調査研究がデータベースの充実のための推進エンジンとして機能したと思います。音楽分野の権利情報データベースは、これらの実証事業や調査研究にご協力いただいた全ての方々の努力のたまものだと思います。」

 その上で、音楽分野の権利情報の管理及び活用の在り方について、次のように指摘する。

末吉亙 弁護士 「権利情報データベース自体の充実の他、①権利の集中管理の促進(組織率向上)、②分配までのトータルなシステム化、③音楽情報の利活用のさらなる促進(たとえば、プロモーションとの連動)、④データの多様な利活用(たとえば、人間の日々の生活と連携関係を取った利活用)、⑤他の分野のデータベースとのデータベース連携(たとえば、書籍や映画のデータベースとの連携)などの取り組みが、直ちには難しいかもしれませんが、将来的には必要になると思われます。権利者が誰かを調べるというプリミティブなところから、データベース自体にいかに付加価値を付けていくか。この取り組みの進展は、昨今のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の流れに乗るのだと思います。」

 文化庁・著作権分科会基本政策小委員会が取りまとめた中間まとめ(※1)では、DX時代に対応したコンテンツの利用円滑化、適切な対価還元方策について検討し、簡素で一元的な権利処理方策と対価還元のために目指すべき方向性の一つとして分野横断権利処理データベースの構築が挙げられた。同小委員会の主査も務める末吉弁護士は、次のようにいう。

末吉亙 弁護士 「簡素で一元的な権利処理方策として、いわゆる拡大集中許諾制度の導入も検討されましたが、集中管理団体の組織率が7、8割以上まで達しないと難しいなど、制度的な課題が少なくありません。一方、分野を横断する一元的な権利処理窓口の創設や分野横断権利情報データベースの構築・拡充は、すぐに着手でき、かつ、簡素で一元的な権利処理の実現に資するものと考えられます。音楽分野の権利情報データベースは、他の分野よりも進んでいますので、音楽分野のデータベースに準じて、又は音楽分野のデータベースが牽引して、分野横断的なデータベースが充実し、異なる分野間のデータベース連携も進むことが期待されています。」

 末吉弁護士の指摘を踏まえ、畑代表理事は新MINCの今後の展望を次のように語った。

畑陽一郎 新MINC代表理事 「コストをいかに回収していくか、そしてそのための事業をどうするか、これらが新MINCの喫緊の課題です。その検討の中で、プロモーションに役立つための使い方など、付加価値を高められるようなデータの利活用について色々なモデルを考えて提案していくことは重要だと思います。また、今後検討していくべき大きな課題としては、分配までのトータルシステムとの連携が挙げられます。このためには、基本データベースが、現在のようにメタデータだけではなく、音源のフィンガープリント・データなども保有または密接に連携する必要が生じてくると予想されます。データの更なる拡充と、そのためのコストの低減化にあたって、データの収集、相互連携及び統合作業の効率化もこれからのテーマだと思います。」

 新MINCのこれからの活動に期待が高まる。

音楽分野における権利情報集約化の歩み

1993年11月| 著作権審議会マルチメディア小委員会が「J-CIS」構想提言

1999年 1 月| ミュージック・ジェイシス協議会(旧MINC)設立

1999年 6 月| 「音楽の森 Music Forest」開設

2015年度| 文化庁調査研究事業「著作物等の利用円滑化に資する権利情報の管理及び活用に関する調査研究」実施

2017~2019年度| 文化庁委託事業「コンテンツの権利情報集約化等に向けた実証事業」実施

2020年度| 文化庁委託事業「個人クリエーターの権利情報集約化及び利用円滑化のための調査研究」実施

2021年4月| 一般社団法人音楽情報プラットフォーム協議会(新MINC)発足、「音楽権利情報検索ナビ」公開開始

2021年度| 文化庁委託事業「個人クリエーター等の権利情報登録窓口の構築及び権利情報データベースとSNSサイト等との連携に関する調査研究」実施



【注】 ※1 文化審議会著作権分科会「中間まとめ(案) DX時代に対応した『簡素で一元的な権利処理方策と対価還元』及び『著作権制度・政策の普及啓発・教育』について」(令和3(2021)年12月22日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/62/pdf/93601701_07.pdf (▲戻る)

【参考】
・プレスリリース「『音楽権利情報登録システム』でノンメンバーの作品登録受付を開始」(文化庁 権利情報集約化等協議会)(2021年12月20日付)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/93621801.html