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コロナに明け暮れた8か月を振り返って

芸団協CPRA権利者団体会議議長/一般社団法人日本音楽事業者協会会長 堀 義貴

 2月26日の安倍総理会見から8か月。日本のエンタテインメント産業は経験 したことがない苦難に直面してきた。1月から深く静かに世界に広まっていった未知のウイルスのことを行政も我々業界も当初は甘く見ていたのかもしれない。

 大阪のライブハウスでクラスターが発生したことが明るみになると、音楽ライブやスポーツイベントは「3 密の象徴」のように思われたのか、3 月からまずライブエンタテインメントに関して2週間の開催自粛が要請され、それがさらに延期され、ついには緊急事態宣言の発令に伴い、映画やテレビドラマの撮影、映画館での上映、テレビ番組の出演者の削減やソーシャルディスタンスを取っての生放送、ゴールデンタイムでの過去ドラマの再放送など、人がパフォーマンスをする場所、観客が集まる場所のほとんどが蒸発した。

 この間、補償のない休業という異例の事態に対して、(一社)コンサートプロモーターズ協会、(一社)日本音楽事業者協会、(一社)日本音楽制作者連盟は連携して行政や国会の先生方への働きかけを行い、3月17日には「新型コロナウイルスからライブ・エンタテインメントを守る超党派議員の会」が開かれ、多数のエンタメ業界団体が集まった。  このままの状態が続くと、ライブ事業に携わるあらゆる職種の人々が生き ていけなくなるという切実な訴えは、一部ネット世論などからは「エンタメなんて不要不急で、生きていくために必要ない」、「そんな脆弱な業界なら無くなっても自業自得だ」といった反発を浴びることとなったが、それでも多くの人々からの賛同もあった。

 4 月に入り演劇界にも動きが出てきた。緊急事態宣言の最中にもかかわらず、東京芸術劇場芸術監督の野田秀樹さんが私のところを訪ねてこられ、音楽業界の動きなども交えて意見交換をした。そうした助言も功を奏したのか、野田氏が中心となり、東宝、劇団四季などの大手企業から小劇団、スタッフ団体まで100を超える団体が集結して、任意団体"緊急事態舞台芸術ネットワーク"も結成された。  音楽、演劇、映画、スポーツ業界によるこれらの大きなうねりは、映像産業振興機構(VIPO)を事務局にした「コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive)」や第2次補正予算における文化スポーツのための補助金の成立、興行再開のためのガイドラインの策定にも寄与したものと思っている。

 個人的にも、依頼のあった取材にはすべて応じ、大臣や元大臣などのもとを非公式公式問わず訪ね、エンタメ産業の窮状を訴えてきたつもりだ。また役所の皆さんには、産業の実態に合った補助金の運用が図れるようにするための要望を、時に語気荒く言い続けてきた。  とかく芸術家、アーティストの中には、個人の主義主張に固執するあまり、政治や行政に対して距離を取るような姿が見受けられるが、遠くから文句を言っていても声が小さすぎて届かないのでは意味がない。  国民、納税者、選挙民として意見や要望を伝えることは、主義信条など関係ない権利だと思う。これからもこうした活動は、後に続く人たち皆が続けていって欲しいと願うばかりだ。

 さて、この激動の8 か月を振り返った時、音楽や演劇、映画といった、世の中に当たり前にあると思っていたエンタテインメント、そして我々が従事してきた仕事が、世界を巻き込んだ未知なる感染症の前では、あたかもガラス細工のように脆かったという現実を如実に突きつけられたということだった気がする。CDの売り上げが激減したことを受けて、唯一右肩上がりの上昇をしてきたライブエンタメ市場が一瞬にして蒸発することなど、年初には誰も予想していなかったはずだ。多くの関係者は、夏になればこの騒動が収まるに違いないという根拠不明な自信に包まれていたと思う。かくいう私もその一人に違いない。  その間、無観客配信やリモート会議など、インターネット技術への知識と経験不足も明らかになり、いざ興行を再開しようにも、先進国の中でもわが国では最も浸透しなかった電子チケットの導入の遅れは、観客自らにチケットをもぎってもらうというアナログ的方法でしか解決できていない。  数年前からIoTとか、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が巷にあふれても、我々業界はあれこれ理由を思いついては二の足を踏んできたのではないだろうか?我が身を振り返っても猛省の8か月であったと思う。

 今現在、効果的なワクチンの存在も、仮にワクチンがあったとして広く世界中の人々が接種できるかどうかわからないのに、希望的観測があちこちで語られることに対しても、不安を感じずにはいられない。インフルエンザにも新型が次々生まれるように新型コロナウイルスにも「新新型」は次々生まれてくるだろう。そのための準備を怠れば、また同じような、あるいはそれ以上の苦難が待ち受けているということを忘れてはならない。

 実演家著作隣接権センター(CPRA)の業務も同様に、音楽産業が今までのように何事もない、という前提で成り立っている。だが数年前からデジタルの波は、徐々に徐々に砂浜をえぐるように押し寄せ、CPRAの収益構造に変化をもたらしている。  音楽配信利用者の緩やかな増加を受けて、全国の貸レコード店の閉店数は増加し続けている。映像視聴の多様化によりテレビ局の収益の柱である広告費は頭打ちから減少に転じている。いずれもCPRAの大きな収益の柱だ。今この時点でCPRAの構造改革をしていかなければ、何年か何十年か先、実演家への分配額が大きく変化していくことを想定しておかなければならない。次に大きな感染症が起きた時では遅すぎる。そういう意識は、我々執行部や職員だけが持っていればいいわけではない。実演家、事業者の一人一人が危機感を持って日々研鑽していかなければならないことだ。  大事なことが討議されている各役所の会議で知見を持って積極的な発言ができる人材や、次に何か不測の事態が起こった時に政府や行政と交渉できる人材、新しいビジネスを素早く理解して適正な徴収方法を組み立てられる人材は、すぐに代わりができるほど容易ではない。先の未来を見越して人間の鎖のように連綿と引き継がれていかなくてはならない。

 このコロナの時代は、団体を構成する個人個人に責任と義務とを自覚させる絶好の機会だったと、後年語れるようにしていかなければならないと思う。  「ウィズコロナ」、「新しい生活様式」といった、今までと違う世界はしばらく続くはずだ。  関係各位のこれまで以上のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。