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よみがえる死者たち~再生アンドロイドと権利問題の夜明け~

弁護士・ニューヨーク州弁護士/日本大学藝術学部 客員教授/神戸大学大学院 客員教授 福井健策

 アンドロイド技術を使って死者を蘇らせる試みが目立って来た。話題になったのは「AI美空ひばり」だろう。ひばりさんの生前の歌声をサンプリングし、歌唱法を学んだ人工知能(AI)が3D映像と共に美空ひばりとして蘇り、紅白歌合戦で新曲を披露したのだ。このほかにも筆者も関わった漱石アンドロイド、蘇って妻・中村玉緒さんと対談した勝新太郎、高座を披露した桂米朝師匠と、AIとロボット技術を駆使して生前そのままの姿・声・話し方を備えた「再生アンドロイド」技術は、急速な進歩を遂げつつある。もっとも、ひばりの場合には「感動した」という反響と共に、「嫌だ」「冒涜だ」といった反発も多く、ネット上では論争にも発展した。

 もともと、ロボットには「不気味の谷」と呼ばれる、中途半端に人間に似ていると人々は気持ち悪く感じるという現象があり、ロボット工学の第一人者である石黒浩教授などは「更に似れば解消する」と予測する。ただ、死者を蘇らせる技術の場合、逆に似れば似るほど更なる別の論争を誘発させる気もする。「そんなことが許されるのか?」という疑問だ。

 とはいえ、再生アンドロイド・ビジネスは恐らく止まらない。なぜなら我々一般人自身が、身近な大切だった人々の元気な姿にもう一度会いたい、話したい、という気持ちに恐らく抗えないからだ。まして現代はSNS上に、誰しも自分の映像や音声・発話を多く残す時代だ。それを用いて故人を蘇らせる技術が更に進めば、まずは3D映像、次いで肉体を備えたアンドロイドと、製造コストが下がるにつれてその普及は止まらないだろう。まして著名スターやカリスマ的な指導者たちであれば、そのビジネス上の価値は論ずるまでもない。

 では、福音であれ冒涜であれ、こうした故人の再生は法的に自由なのか。実は、正面切って禁止する法律は意外と少ない。まずは人の姿形を再現するのだから、当然肖像権が問題となるのだが、これは法的には本人の人格的権利と整理されている。そして人格権は死亡とともに消滅するというのが一般の理解だ。(ただし、死者の名誉やプライバシーを害する使い方をすれば遺族に対する不法行為にあたることはある。)

 他方、いわゆるパブリシティ権の場合、「人格権に由来する財産的な権利」というややこしい整理なので死後の保護はもう少し微妙だが、判例が無くはっきりしない。もちろん、生前の映像や音声など資料はいるので、再生アンドロイドの制作と展開には、遺族や旧所属事務所が関わるケースが多いだろう。 誰かが無断で故人を再生アンドロイドにしようとしたら、遺族は止められるべきか? いや、それ以前に遺族がOKなら再生アンドロイド作りに問題はないのか? AI(人工知能)の開発には、世界で様々な倫理的・法的なガイドラインの議論が行われている。そろそろ、死者を再生する行為についても我々は議論を始めるべき時期に思える。