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著作権分科会各小委員会の審議経過について

芸団協CPRA

去る3月5日に開催された著作権分科会では、同分科会に設置された法制・基本問題小委員会、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会及び国際小委員会の三つの小委員会から審議経過報告が行われた。各小委員会における審議経過を紹介する。

法制・基本問題小委員会

 法制・基本問題小委員会では、著作権法制度の在り方及び著作権関連施策に係る基本的問題が取り上げられている。今期は「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応」及び「権利者不明著作物等の利用円滑化」を中心に検討が行われた。

 「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応」では、プラットフォーマーや憲法学者からのヒアリングを実施し、論点整理を行った上で、審議が進められている。「リーチサイト」とは、ウェブサイトなどに違法にアップロードされた著作物等へのリンクを提供するもので、広告収入を得ているウェブサイトもある。最近では、漫画や書籍を違法にアップロードしている海賊版サイトに誘導するリーチサイトの運営者が著作権法違反の疑いで逮捕された例もある。

 このようなリーチサイトへの対応については、緊急に対応する必要性の高い対応すべき悪質な行為の範囲について、民事上の差止請求や刑事罰の対象とする行為の範囲などの各論点に対して出された意見を併記している。その上で、引き続き重要課題として、表現の自由への過度な萎縮効果を生じさせないよう配慮しつつ、リーチサイトによる被害に対する権利保護の実効性を確保する観点から、具体的な検討を迅速に行うことが求められるとしている。

 また、「権利者不明著作物等の利用円滑化」については、平成27年度に実施された海外調査を踏まえ、拡大集中許諾制度を日本に導入した場合における課題やメリット・デメリットを整理し、今後の検討材料を提供することを目的として実施された調査研究に基づく検討が行われている(※1)。拡大集中許諾制度については、必要に応じて小委員会において検討を行うこととしつつ、権利者不明等の場合の裁定制度の活用によって権利者不明著作物等の利用円滑化に向けた方策を検討していく必要があることを確認している。

著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会

 2013(平成25)年に法制・基本問題小委員会に設置された「著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム」が、2014(平成26)年に小委員会となって、私的録音録画に係るクリエーターへの適切な対価の還元について審議を進めている。

 今年度は、昨年度までの議論を踏まえ(※2)、私的複製による不利益が権利者に生じ、原則として、権利者への補償が必要であり、どのような私的複製について補償の必要があるのかを検討することが重要であり、さらに、制度構築の上で社会的理解を得る必要があるという点に前提を置いて、私的録音におけるクリエーターへの適切な対価の還元について検討が進められた。具体的には、私的録音に関する実態調査や対価還元の手段について審議したほか、諸外国における近年の動向についても報告が行われた。

 まず、私的録音に関する実態調査結果の分析として、過去1年間にCDやラジオ・テレビ、音楽配信データ等の音源の録音を行ったことがある者の割合は40%となっており、3年前とほぼ変化はないものの、録音に使用した機器等としては、パソコンやスマートフォンが多く、ポータブルオーディオプレイヤーもそれに次いで多い状況にあるとしている。そして、実際に行われた録音等の曲数に着目すると、新規に入手した音楽音源の録音等曲数は、3年前に比べ、録音等を行った機器等ごとに増減はさまざまであるが、既に自分で入手した音楽音源については、各機器等の録音等の曲数は全般的に増加しており、さらに、10年前の調査結果との対比でみれば、ポータブルオーディオやパソコンへの保存曲数は増加している。そして、今から2~3年後の将来における録音等の曲数について「変わらない」とする回答が増加している一方で、「増える」及び「減る」と回答した者は、3年前に比べて、共に減少しているとした。

 次に、対価還元の手段として、①私的録音録画補償金制度、②契約と技術による対価還元手段及び③クリエーター育成基金という三つの選択肢について、それぞれの強みや課題について議論された(※3)。実効的な対価還元手段に向けて、これらの対価還元手段として取り上げられた選択肢を組み合わせることも含めて総合的に探っていくべきであるとしている。

 今後、契約と技術による対価還元手段等により適切に対応できる領域が増えていくのであれば、私的録音録画補償金制度制定当初には成し得なかった解決手段を提供することが期待されるものの、現時点においては、その実現可能性や範囲は明確ではなく、今後、実効性のある契約と技術による対価還元モデルが構築され、どのように有効に機能し得るか、推移を見守っていくことが重要であるとしている。

 また、クリエーター育成基金については、健全なクリエーターの育成と創作拡大に向けた支援基金を設立し、日本コンテンツの競争力を向上させるべきとの方向性については一定の共有認識があるものの、検討すべき課題が多いとして、私的録音録画補償金制度における共通目的事業への支出において生かす形で改善を図っていくことも適切であるとの意見も紹介されている。

 そして、私的録音録画補償金制度については、ユーザーの個々の録音録画行為を捉えることが困難であることなどを踏まえて構築された包括的な制度であるため、制度を維持すべき領域については、内在する課題等の改善に向けて必要な見直しを行う必要があるとして、対象機器・媒体の範囲や定め方、協力義務の考え方、分配・支出の在り方及び共通目的事業に対する意見が紹介されている。

 審議経過では、本年度における検討結果を踏まえながら、引き続き私的録音に係る対価還元手段について、具体的な制度設計に向けた検討を深めるとともに、私的録画に係る対価還元手段の在り方について検討を行い、対価還元手段の在り方について、方向性を示していく必要があるとしている。

 委員として出席する椎名和夫芸団協CPRA運営委員は「ワーキングチームの時代を含め、この小委員会では、クラウドサービス等と著作権の問題について検討した後に、私的録音録画に係るクリエーターへの適切な対価還元の問題について検討を進めてきた。今年度は、原則として権利者への補償が必要であることを前提として、対価還元手段の選択肢を掲げて、ようやく具体的な議論が進められる段階に入ってきた。少しずつではあるが、議論は進んでいる。私的録音録画補償金制度について対象機器・記録媒体の決め方など各論の議論に入ったことはかつてない画期的なことであったと思う」と、これまでの経緯を振り返った。

 そして「審議経過では、私的録音に関する実態調査結果を踏まえて、『現時点において、補償の必要がない程度まで私的複製の量が減少しているものではなく、現行制度上の私的録音録画補償金制度を廃止するほどに必要な立法事実があるとは言えない』とする意見が紹介される一方、『近い将来のうちに私的録音の全体の量が確実に更に減少していくといった主張は、広い支持は得られなかった』としている。そして、『代替措置が構築されるまでの手当てとして、引き続き、私的録音録画補償金制度により対価還元を模索することが現実的であるとする意見が多かった』と紹介しているあたりに現在の小委員会の立ち位置がよく表れされている」として、私的録音に係るクリエーターへの適切な対価還元の手段として「私的録音録画補償金制度は、著作権法30条1項に定める私的使用のための複製の自由を維持するうえでも、意義のあるものである。今回、実施された実態調査の中でも、65.3%の人が、私的使用目的に音楽を録音するために補償金を支払う必要があると回答している。今後は私的録音録画補償金制度を手直しする方向で、具体的な議論が進められるものと考えている」と語っている。

国際小委員会

 国際小委員会では、「著作権保護に向けた国際的な対応の在り方」及び「インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方」について審議が行われた。

 「著作権保護に向けた国際的な対応の在り方」については、世界知的所有権機関(WIPO)の著作権等常設委員会(SCCR)における議論について審議されている。SCCRでは、放送機関の保護に関する条約の策定に向けた議論のほか、図書館やアーカイブ、教育、研究機関における権利制限について議論されている。また、「インターネットによる国境を越えた海賊行為への対応の在り方」については、マレーシアにおける著作権侵害等に関する実態調査報告や諸外国におけるインターネット上の著作権侵害対策のほか、文化庁による著作権制度整備や普及啓発に係る取組などについても紹介されている。

 委員として出席する松武秀樹芸団協CPRA運営委員は「国際小委員会では、WIPOにおける検討状況や国際的な海賊版対策などが議論されている。放送機関の保護に関する条約の策定に向けた議論では、保護対象について伝統的な放送機関によるインターネット上の送信をどのように扱うかなどが議論となっている。同じことが繰り返し議論されているような感じもするが、それだけ国際的な議論の場の難しさを示しているのではないかと思う。また、インターネットにおける海賊版の問題は、確かにインターネットへの接続遮断やアクセス制限などの強硬的な手段による対応も考えられるが、まずは、モラルの問題として著作権や著作隣接権について普及啓発していくことが重要ではないか」と語っている。

今後の予定

 次期の著作権分科会の検討体制は未定であるが、来期も、リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為への対応やクリエーターへの適切な対価還元の在り方について、引き続き審議が進められることが見込まれる。

(著作隣接権総合研究所 君塚陽介)

【注】
※1:報告書全文は、文化庁ウェブサイト(http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/ chosakuken/pdf/h29_kakudai_kyodaku_hokokusho.pdf)より閲覧可。 (▲戻る)
※2:昨年度の審議経過は「私的複製に係るクリエーターの適切な対価還元を求めて~著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過について~」CPRAnews85号2頁以下(2017年7月)をご参照下さい。(▲戻る)
※3:詳細は「私的録音録画補償金制度の見直しの動向」CPRAnews87号6頁以下(2018年1月)をご参照下さい。(▲戻る)