中村 伊知哉
スタンフォード日本センター研究所長
テレビ。渋谷とおぼしき街頭。女子中学生が、カップ麺に熱いコーヒー牛乳ぶっかけた。「おいしいおいしい。」やらせ番組ではなさそうです。うまいのか。それが。うーん。味覚というやつは三代かかるという。ぼくの脳ミソん中に三代かけて培った味覚のDNAを、てめえたちは覆そうというわけだな。つまり、パンクなのですな。
連中は片手でメールを連発します。着うたを鳴らしてビデオを発信します。地球の先端を行くのです。そんな渋谷の女子中学生たちよ。うかうかしてはいられないぞ。周りをみてみろ。小学生ばかりではないか。次の世代がひたひたとやってきているぞ。
美しい。小学生だというのに、右手にケータイ、左手に化粧バッグをぶらさげています。ヘアスプレー、リップクリーム、アイシャドー、マニキュア、ボディージェル。どれも青や緑やピンクのラメ入り。くちびるも、ほほも、つめも、警戒色でピカピカに染め上げて、センター街を駆け抜けるのです。
そんな世代のこどもたちと、アニメ教室を開いてみました。東京大学に数十名のこどもが集い、ねんどを使ったアニメーションを作ったんです。ストーリーを作る。キャラクターを描く。ねんどをこねる。コマ撮りする。パソコンで編集する。音声を入れる。そして作品をブロードバンドで世界に見せる。
鼻歌まじりに初めて触れるパソコンを使いこなし、ポップでキュートな短編が生まれていきます。デジタル時代のコンテンツは、この世代が生み出していくのです。コンテンツは「楽しむ」ものから「創る」ものへと変わっていくのです。
このワークショップを主催したのは、CANVASという名のNPO。こどもの創造力と表現力を高めるための活動を推進しています。内外の科学者や学校の先生、アーティストや政府・自治体、企業らが集うプラットフォームです。総合的学習の時間が学校に導入されたことをはじめ、ITとこどものかかわりを模索する動きが広がる中、注目を集めています。
http://www.canvas.ws
2004年1月には、いろんなワークショップを集めたイベントを開催しました。中でも人気を集めたのが、アーティスト
LOCOさんによる糸電話づくりと、オルケスタ・デル・ソルのパーカッショニスト、ペッカーさんによる太鼓たたき。アナログです。CGキャラクター作りとかロボット作りとか、ハイテクなものも多かったんですけど。やっぱ本物のアーティストってのは、何にも勝る磁場なんですな。
DJになろう、っていうワークショップもありました。お皿回す、クラブのDJね。カッコいいんです。無数の曲の中から2枚のCD音源を組み合わせて、自分のオリジナルを創って聞かせるってやつ。これは、音楽を「創る」だけじゃなくて、「編集」の学習でもあるんですな。ネット時代、あふれる情報を捨てて選んで組み合わせる、という能力が大事。それをポップミュージックでやってみようぜ。
もっといろんなアイディアがありそうだ。よし、ならばニッポンならではのワークショップをもっと開発しよう。たとえば、チンドン・ワークショップはどうだ。笛と太鼓と口上ビラまき3人一組で、自分の学校やコミュニティを宣伝して街を練り歩くのです。
どつきマンザイはどや。キミとはやっとれんわ。えーかげんにしなさい。どついて仲良うコミュニケーション。ニッポンならではの様式ちゃうか。そんなんこどもらに作らせて、世界に見せたったらええねん。---CANVASではそんなことをワイワイと企画しています。
日本の若者は決してつつましくはないですね。2001年の年末、そう、9.11の年です、米タイム誌がマン・オブ・ザ・イヤーを公募したところ、オサマ・ビンラディン氏は2位でした。堂々の1位に輝いたのは、田代まさし氏。のぞき事件が騒ぎになった年でもあるわけです。「2ちゃんねる」のコミュニティーがジョークで投票した結果だといいます。
おかげでタイム誌はこの栄誉あるイベントのページを削除するハメになったそうです。世界的なエスタブリッシュメントたるマスコミが、極東の、匿名の、しかし連結したガキどもにいてこまされた。というわけです。ネット社会の行方を占う事件ですな。日本の若い連中が国際ネット社会に情報を発信していく意思表示とも読めますな。
みんながクリエイトし、発信しはじめます。音楽業界は、映画産業は、テレビ業界はどうなるの。ビジネスモデルはどうなるの。大人はそんなことばかり気にしております。でも、こどもたちは、業界のことなどおかまいなしに、音楽を、映画を、テレビを、表現を、リアリティーを、塗り替えていく。つまり、パンクなのですな。